主役は管理職ではなく部下。吉田幸弘氏の1on1コーチングで組織が変わる

サラリーマン時代、うまくコミュニケーションが取れずに何度も降格人事にあった吉田幸弘氏。しかし心機一転、伝え方の大切さを学んだことで、成績トップに返り咲く。マネジメントのプロとしての活躍を始めた吉田の著書は10冊にのぼる。その根底にある考え方とは何か? あるべきリーダー像に向かうためにはどうすればよいのか? これからの展望も含めてとことん伺いました。

部下に届く言葉がけの正解

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失敗から学んだ「伝え方」の大切さ

― 吉田さんの現在のお仕事を教えてください。

人材育成コンサルタントと営業コンサルタントをおこなっています。企業に対しての研修や講演のほか、企業の管理職の方への1on1ミーティングもしています。

― コーチングサービスを提供しようと思ったきっかけは何ですか?

私は学生時代ボート部で、先輩にも指示を出さなければいけない、コックスというポジションにいました。そのため、スポーツの監督の本をたくさん読んで、マネジメントにも興味を持っていました。

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伝え方を変えたら成績に直結

実は、私はサラリーマンの頃、トップダウンで失敗してしまった経験があります。怒ってばかりのコミュニケーションでチームはうまくいかず、降格人事にあってクビ寸前にまで追い込まれてしまったのです。異動先でようやく「伝え方」の大切さに気付き、私は自分の状況を立て直さないといけないと思い勉強を始めました。

そこから成績は急上昇。営業成績は連続トップで、私はマネジャーに再昇格できました。その後、セールスのトレーナーも受け持つようになり、本が好きというのもあって、独立してこういう仕事をしたいなと思ったのです。

トップダウンで悩む企業は多い

私はどちらかというと、「部下が主役でリーダーが補佐役」という考えを持っています。ですから、トップダウン型でうまくいかない企業さんが、私の考えに共感してくれて、呼んでくれることが多いですね。「俺の言う通りにやれ」というような管理職が、面談の対象になることが多いです。

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1on1ミーティングで管理職を変えていく

まず管理職の方の考えを変えなければいけません。企業の中の管理職の方に毎月お会いして、次の月まで行う目標を決めます。それに対しての振り返りをし、修正して次の目標を作るというのを半年から1年間かけてやります。

10人の管理職を半年面談していく場合、2割ぐらいの方は共感して考え方を変えてくれます。けれども、下の2割ぐらいはなかなか変わってくれません。真ん中の人は、ちょっと管理職としては悩みがある。

そこを、寄り添って解決していくということですね。もちろん下の方にも根気よく接していき、変わってくれた例もいくつもあります。

離職率の改善は利益に直結する

― 実際にどんな変化がありますか?

一番大きく変わるのは離職率です。営業成績を大きく上げるのはなかなか難しいし時間がかかる。しかし、管理職の方が変わることによって、離職率が目に見えて下がってきます。離職率が下がると、求人費もかかりませんし、人が入れ替わらずに育っていくという利点があります。

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出版によってコーチング依頼も加速

― サラリーマンから独立しようと思った時、葛藤はなかったのですか?

企業でトレーナーをしていて、変化したマネジャーの方もいました。だから、変えることはできると思って、3年計画で準備を始めました。個人的なつながりはあったとはいえ、やはりいったんはゼロになりました。法人との契約は全くのゼロスタートでした。

― そこからどのように実績を積み上げていったのですか?

商工会議所に飛び込みで営業をかけたり、セミナーを自分で開催して、参加していただいた方を面談の長期契約につないだこともあります。また、メールマガジンを長く発行していたので、それを見てセミナーに来てくださる方もありました。そこには人事の方もいらっしゃって。初めて企業に入ったのはそれがきっかけでしたね。

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管理職時代の経験をもとに出版へ

― 独立して2年後に本を出すというのは速い方だと思うのですが、きっかけは何ですか?

本を読むようになってから、読んだことをブログに書いたり、メルマガにしてほぼ毎日、2008年から2年間書きためていましたから。
 
その時に、ちょうどある方と、メルマガの 相互紹介をやりとりしていたんです。その方が出版することになり、最初の本がものすごく売れた。そしてその方のコンテンツが日本中に広まりました。

それを見て、「そうか!」と思いましたね。その方は独立して1年ぐらいで本を出されているんですよ。

起業の本を書くには、独立して2年では実績がないので無理だと思います。でもその方のように、私は管理職向けになら本が書ける。サラリーマンとして12年間、管理職の経験があったので、それを伝えよう、それを本にしようと考えました。

― 今までに10冊出されていますが、どういったテーマが多いですか?

10冊のうち8冊がリーダー向けです。歴史上の人物からリーダーシップを学ぶ、『西郷どん式 リーダーの流儀』なんていう本も出しました。他に、タイムマネジメントの本や雑談の本もあります。こういった違う分野の本も、今後出していきたいなと思っています。

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焦らずじっくり変えていこう

― 実際企業では、リーダー育成、新人、セールスなど、さまざまな課題があると思います。うまく意識を変えていくためにはどういった要素が必要なんでしょうか。

焦って一気に直そうとしないことが大事です。まず1つ、多くても3つまでに絞って、期間を決めて改善していきます。そして、どれだけできたか確認し修正する。あとは距離を縮めるということです。なんでも相談できる仕組みを作っていくことが重要ですね。

個人が良くなれば、組織は上がる

― 組織全体を良くしていくことと、個人の力を高めていくこと、どちらが先でしょう?

確かに組織のビジョンは重要です。しかし、ビジョンで上からいくとそれに違和感を持つ人もいる。

ですので、私は個人から変えるのがよいと思っています。特に中間管理職は、トップと下、両方と接することができるので、その人たちが個人的に変わっていけば、会社はかなり変わるのではないでしょうか。

運動神経が良い子はみんな野球かサッカーという時代ではないし、昔はみんな歌番組を見て育っていたけれども、今は趣味も多様化しています。今はみんな違う方向を向いていますから、組織から変えていくというのは難しくなっていますよね。だから個人から力を上げていくほうがいいと思います。

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自己開示をすると、話がしやすくなる

― 個人の能力を高めていくのに必要な、注意すべきポイントはありますか?

まず相手をよく知り、それを受け入れることです。そして、相手の特徴を踏まえながら、いい部分は残して、改善しなければいけないところは改善していくといくことが大切です。

1on1で、仕事以外の話もしたほうがいいですね。趣味の話をしたりするのがよいでしょう。

女性に対して「彼氏見つけて結婚する予定あるの?」とか、そういう話をするのはよくないです。仕事をやっていてどういうときに嬉しいか、どういうときにつらいのか、先にマネジャーが自己開示して、話しやすい雰囲気をつくるのもよいと思います。

― 昔の自分の話をしたりすると、説教じみてくる人がいますよね。そのあたりは、どの様にしていけばいいですか?

昔こうやっていたといっても、時代が違いますし、相手も対応しづらいです。まず「話は聞きましょう」というところですね。ですから、自分の今までの仕事の中でどういったことをどう自己開示すればいいのか、そのトレーニングもしています。

― それをきちんと理解してもい、意識を改革していくのは、1日2日では無理ですね。

時間がかかります。毎月1時間の1on1というより、20分でもいいので何回もやったほうがいいですね。1回では難しいです。

― 企業に属していない第三者が空気を変えるというのは、すごく大事なんだなと思います。

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オンライン営業だからこそ注意が必要

営業からも講師として呼ばれることがあります。営業マネジャーの研修や営業管理職の研修というのが結構あるんです。

― 営業では、今どんな悩みが多いのですか?

断られる。優先順位が低く、後回しにされる。だから売れないというのです。

9月になってから9月の売上を追いかけても無理。無理な値引きなど、場当たり的なことばかりするようになってしまいます。売上を上げるには、長期的な戦略が必要です。それを意識するためには、3カ月単位、半年単位で見ていくほうがいいですね。そうすれば、もっといい仕事が取れると思います。

よい仕事を得るには長期戦略が必要

長期的なスタンスで考えてもらうこと。そして、押しすぎないことですね。セールスはこうやるんだということより、私は人の部分に焦点をあててお伝えしています。営業も人ですよね。特にオンラインになると、ちょっとした違和感で仕事をもらえなくなってしまいます。

特に営業マンで、ここを注意してくださいと伝えているのが、営業で最後の部分。これは注意が必要です。終わるときの振る舞いの一つで人間関係が崩れます。逆に終わりが良ければすごくいい関係で終わるので、良い印象が残るんです。

仕事以外の宿題をもらうのもいいですね。オンラインだからこそ、息を抜きたいという人もいます。そういう人に、「今度ここに行くんですけど、どこか美味しい店はありますか?」という食の話とか。そして教えた店に行ってくれると、印象がいいですよね。そういうところを使ったりします。

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管理職は、横のつながりを求めている

― 今後やってみたいことはありますか?

リーダーの方のコミュニティをつくりたいと思っています。管理職の方がいま一番求めているのは、管理職同士の共有なんです。「このやり方は合っているんだろうか」と思っていても、それを企業の中で言ってくれる人が減っている。

ですから、管理職向けの講演会など、違う業界の違う会社の人が集まったとき、管理職同士の共有や情報交換をして、それを確認したいのです。管理職の方同士のコミュニティをつくれば、いろんな悩みを共有して、お互い解決し合うことができると思います。

実は、よくセミナーに来てくれる人を集めて、小さなコミュニティをつくろうと考えていたのですが、コロナ禍で計画を止めています。来年以降はやりたいですね。

マネジメントという中間層共通の悩み

― 確かに中間層の人たちって、横のつながりがあまりないですね。飲み屋で全く違う業種の人同士話すのは、結局そこの部分だったりします。

業種が違っても、人をマネジメントするというところは、だいたい共通しています。今回は報連相について話し合う、 部下の弱い部分をどう解決したらいいか話し合うなど、テーマを決めてやると面白いなと思います。時には論語やドラッカーを読むのもいいですね。

BtoCで悩みにこたえていきたい

意外にないじゃないですか。管理職や人材育成をしている人って、企業研修を取れればいい、講演に行けばいいという感じですが、そこだけでは解決できない部分がある。そのつらさを解決したい人たちが本を買っていると思うんです。ですから、その人たちに伝わる何かをしたいのです。

個人のベクトルがあちこちに向いているなか、中間管理職は本当に大変です。

『リーダーの一流、二流、三流』という本の後ろに、名言を100個ダウンロードできるところがあるのですが、670人がダウンロードしてくれました。感想を入れてくれた人もいます。 やっぱり悩んでる人が多いんですね。人事やセミナーでというより、 一般の個人の方が多い。ですから、ここに照準を置きたいなと思っています。

平日は毎日、「一流のリーダーのちょっとした心がけ」ということで、メールマガジンを発行しています。ぜひご覧いただきたいと思います。

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【略歴】
吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)
リフレッシュコミュニケーションズ代表
コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・リーダー向けコーチ

成城大学卒業後、大手旅行会社を経て学校法人へ転職。1年間で70件以上の新規開拓をし、広報リーダーになるも、「怒ってばかりの不器用なコミュニケーション」でチームをガタガタにしてしまう。その結果、職場を去らなければならない羽目になり、外資系専門商社に転職。転職後も、周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験し、クビ寸前の状態になる。その後、異動先で出会った上司より「伝え方」の大切さを教わり、ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法を駆使し、営業成績を劇的に改善。5か月連続営業成績トップになり、マネジャーに再昇格。

コーチングの手法を用いた「部下を承認するマネジメント」及び中国古典をベースにした「ストレス耐性力アップ術」により、離職率をそれまでの10分の1にし、売上も前年比20%増を続け、3年連続MVPに選ばれる。そして、社外でもコンサルタントとして活動し、クライアント数が増えてきたため、2011年1月に独立。現在は経営者・中間管理職向けに、人材育成、チームビルディング、売上改善の方法を中心としたコンサルティング活動を行ない、累計受講者数は3万人を超える。

「管理職研修」をはじめ、「営業力アップセミナー」「褒め方・叱り方・伝え方をベースにしたコミュニケーションセミナー」「モチベーションアップセミナー」「アンガーマネジメントの理論をベースにした感情マネジメントセミナー」「リーダーの総合力をアップするリーダー塾」などを主催。著書に、ロングセラーとなっている『リーダーの一流、二流、三流』(明日香出版社)などがある。

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