「聞く」とは自分の知識を増やすこと。「聞く」から生まれる変化とは?

「聞く」とは自分の知識を増やすこと。「聞く」から生まれる変化とは?

動けばステージが変わる。まず小さなことから動く、小さなことなら失敗しても引けばいいだけ。動けば小さなことでも反響が広がり大きな輪になっていく。「私は聞き方を変えて出版・起業へとつながった」というブックライターの丘村奈央子さんに、論破好きだった自分が人の話を聞く喜びに気づいた経緯を、とことん聞き取らせていただきました。
「聞き方」と「書き方」をまとめた著書『立てる・埋める・直す 3ステップで確実に書き上がる ビジネス書実用書の書き方』を手に、それぞれのゴールに向かって振り返らずに走れ!と勇気づけてくれます。

聞き方を変えることになったきっかけ

- 今出されている「聞き方」の電子書籍『人生が変わる会話術』は、読めばタイトル通り人生が変わるものなのでしょうか? 丘村さんは、もともと論破するタイプだったとお聞きしていますが、聞くことによってどのように流れが変わったとか、人生観が変わったとか、お聞かせください。

聞き方を変えて、気が強い自分でも喧嘩をすることが減りました。それまでは自分の主張を相手に納得させよう、言い負かそうとして、声を荒げたり言葉の数を多くしたりしていました。

最初に就いた営業職のときも、本当はお客様の話を聞いて必要なものを提示すれば手に取っていただけるのにそうしていなかったし、できませんでした。「まず聞くべし」という法則がわかったのは、本当に聞き方を変えたあとです。買う気持ちのないお客様に時間をかけてしまって、全然クロージングにいたりませんでした。

- 相手のポイントが見えていなかったということですか?

良く思われていないのは薄々感じていましたが、何がいけないのかさっぱりわからないまま営業を続けていましたね。

その後、2000年にベネッセコーポレーションに派遣社員として入ったときも自己主張型の仕事をしていました。制作の進行管理だったので「この原稿が出ていません」「これどうなってるんですか」と上から目線でも仕事が進んでいったんです。でも2007年にシャープ広報室に編集派遣で入り、社内報制作に携わるようになってからその方法が通用しなくなりました。

記事制作のためには業務中の手を止めてもらう必要があり「お話ししていただけませんか」というスタンスが求められます。「今までのようでは駄目だ」と思ったのが「聞き方」についての最初の気づきです。

上司の方ともよくぶつかりました。10年近く継続している現場のやり方と、編集経験がある私のやり方が相容れず、みんなが困っているのに会議で何時間も争っていたこともあります。

いろいろ試して身につけた誰でも実践できる聞き方

- 今からは想像できませんね。

逆に、昔を知っている人は「あなたがなんで人の話を聞く仕事をしているのか想像できない」と驚くと思いますよ。ああ言えばこう言う性格でよく人から指摘されていましたし、今も基本は同じかもしれません。

でも社内報制作を続けて、やっと「相手を変えるよりは自分が変わった方がいい」と気づいたんです。100人いて100人全員に「私のやり方に合わせてくれ」というのは無茶でしょう。それよりは私が相手に合わせた聞き方をすればいいやと思うようになりました。

丘村奈央子

ただ聞き方の本を見ると、AさんならAさん向けの聞き方、BさんならBさん向けの聞き方をすべきというタイプ分けが出てきます。これが難しくてできない。会話している最中にそんなこと考えていたら、会話に集中できないんです。

- そうですね。この人はどのタイプだなんて思わないですね。

おそらく、すでにわかって自然にできている人が書いた本なんだと思います。「できないから苦労しているんだよー!」と思って、もっと楽な方法、怠けられる方法を考えました。

それで辿り着いたのが電子書籍『人生が変わる会話術』です。人を選ばずに相手が気持ちよくなる方法を追究したら、タイプを分析するのではなく相手の言っていることをそのまま受けて、その発言から次の発言にしていけばうまく会話がつながりそう。それなら分析しなくていいし、集中するのは相手の発言だけですむと気がついたんです。やってみようと思って、実行したらうまくいくようになりました。

最初にうまくいくかもと思った相手は会議でよく争っていた上司の方でした。本にも書いたのですが映画や本、音楽について造詣が深い方で、いろんなところに行っていろんな知識を持っていたんです。

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私はというと「編集をやっているから本もたくさん読んでいる」と思われがちですが、実は威張れるほどは読んでいない。海外文学や単館で公開される映画の話をされても全然知らないことばかりです。私が知らない話でマウンティングされているんだと思って、よく尋問されている気分になりました。

でも自分のほうが知識不足なのは事実。そこで「負けているかも」という感情を横に置いて「知らないんだから聞けばいい」と切り替えることにしたんです。「それってどういう映画なんですか」「その監督さんは有名なんですか」「その本はそんなに面白いんですか」と相手が言った内容に乗っかって、自分が連想したことをそのまま正直に「わからないなら聞けばいいや」と思って質問する。すると、相手も興に乗ってどんどん話してくれたんです。

聞き方を変えると相手の反応も変わる

交流会などで初めての人と話すときはその場で情報を得ますが、取材では連想の準備をしていきます。準備した内容を頭に入れながら、そのときの相手の反応に質問を乗せていく感じで進めます。

準備をすれば、お聞きしたい内容を話していただけることが多い。おそらく相手の方も「自分の回答に乗せて言葉を返してくれる、聞いてくれている」と安心できるんだと思います。

- 話を聞いてくれる人はいい人に思えるということですね

聞き手の実際の人格が「いい人」かどうかはまた別ですが、その話に興味があることを伝え続ければ、相手は悪い気はしないのではないでしょうか。その原則を守ると会話がちゃんと回って、いい関係が築けると思います。そのために何をすればいいかまとめたのが『人生が変わる会話術』で、プロセスをこういう風に重ねていけばいいと示したものです。

聞けない人は損をしている

-私は仕事柄いろんな人と会ったり相談を受けたりしますが「どうしたらいいんですか」と聞きながらめっちゃしゃべる人に対してどうしたら良いのかわかりません。「しゃべり過ぎるからうまくいっていないのでは」と思う人も多い。丘村さんは話を聞けるようになったじゃないですか。その意識というのは、どんな意識なんですか。

たぶん「私の話より相手の話のほうが面白い」と思ったときは自然と口を閉じています。大阪という土地柄もあったと思いますが、私が頑張って話をしても相手のほうが数倍面白いケースが多々ありました。それなら相手の話で場をつなげば盛り上がるし、話し手も喜んでくれるし、私がないネタを頑張って話すよりは雰囲気がいい。それに知らないこと教えてもらうと自分の引き出しが単純に増えていくんですよね。「そうだったんだ!」って聞いているほうが得するんです。

聞き役は損だという人もいますが、聞いてるほうが十分得させてもらっています。知らないビジネスがあれば、どうやって気づいたのか、利益を出すのにどうするかは知りません。反対を乗り越えて実現させたプロセスも私の知らないことですし、聞いたら教えてもらえます。

丘村奈央子

批判にはどのように対応すべきか

知らないことを聞ける時間だと思ったら、聞くことはそんな苦ではないんです。1時間でも2時間でも「へーっ」と思って聞いていられる。それがたまたまお仕事につながっている感じです。

つい話しちゃう人の心理は、自分に照らし合わせるとやっぱり「打ち負かしたい」「自分の正当性を伝えたい」「自分のほうが優れていることを思い知らせたい」というどこか自己顕示欲の強い気持ちがあるような気がします。

- そういう思いは何となく感じますね。

知らないことについて「あなたこれを知らないでしょう」と上から来られたときも「知らないんですよ、教えてください」と答えられる状態になれば会話が弾むと思うんですよね。もちろんディベートなら本気で理論武装しますが、会話で聞く分には「知らなくてすいませんでした、教えていいただいてありがとうございます」でいいやと思っています。

- その俯瞰をしちゃったら入っていけることはいっぱいありますね。

本でもセミナーでも言っているんですが、会話を1往復2往復したあと自分が「へー知らなかった」ということが1個でもあったらその会話は成功だと思っています。会話がなかったら0だった事柄について、教えてもらえて1になった。大成功です。ほんの1往復の会話でも「そうなんですね」という情報があったら、自分にとって得したなと思える。

- その考え方はすごくいいですね。聞くだけですものね。聞くことでいろいろな流れができるじゃないですか

知ったことによって、別のお客様のところへ行ったときに「こう聞いたことあるんですけどそうなんですか」と聞いたら「よく知ってるね」と褒められたり「うちはこうなんだよ」と全然違う答えを教えてもらったり、話が発展します。自分だけでしまっておくわけではなく、違うところで違う引き出しを作るきっかけにもなったりするので面白いですね、人とお話ししていると。

どのような場面で利用できるのか

- コンパより全然いいですね。

コンパでもありだと思いますよ。『人生が変わる会話術』のアマゾンレビューに載っています。「婚活パーティーで実践すると人気上位3位内に入り、さらに第一希望の方とマッチングしました。「人生が変わる」とは大げさかと思っていましたが、本当です!」と書かれていました。

そういう場面にも使えると思っていたので「実証してくださった方がいた!」とうれしくなりました。あと、外国在住の方のレビューには「他の本は使えなかったけれど、これは日本語でも外国語でも使える」「夫との会話にも役立った」とあって。

普通の生活でも大いに使えます。私は親戚との会話でも活用中です。こっちはこっちで聞いていて楽しいだけなのに「聞くのうまいね」と言われて。それはそれでありがたいです。

- その心の持ちようがいいですね。

別にいい人になろうと思わなくてもいい。嫉妬や劣等感のような黒い心を持ったままでも構わないと思うんですけれど、せっかくだから「お会いしている時間はちょっと教えていただく時間」だと考えればいいんじゃないでしょうか。

-すごく良くないですか、それ。

そのポイントに気がついてから、人生が変わったなと感じます。まさか自分が聞く仕事をするようになるとは思っていなかったので、そこも人生が変わりました。聞くのが大変という人がいたとしても「私みたいな論破好きでもできたんだから、皆さんできると思いますよ」と言っています。

出版を目指す人に向けて

-聞かせてあげたい人がいっぱいいますよ。

そう思ってくださる人が多いようで、この電子書籍はすでに8500ダウンロードを超えているそうです。紙の本と違って本屋には置かれていませんが、2016年夏の刊行ながら今も広まり続けています。じわじわ知ってくれている人が世の中に増えているらしい。なかなか表には出てこないんですけど。

-もともと電子書籍を書こうと思ったきっかけは。

ごきげんビジネス出版という版元の編集者さんが、以前アメブロでOL仕事術を書いているのを見つけてくださったんです。電子書籍がまだ広まっていない2013年頃で、最初は「これは怪しい、売れるかどうか関係なく出版費用で儲けるビジネスじゃないか」と疑っていました。でも訪問したらしっかりしている会社で、初期費用ではなく売った報酬でビジネスを組み立てているとわかりました。

表紙デザインやコーディング、PRを含めてお任せして、最初に出したのが『15分早く帰るためのオフィス仕事術[机周り改善編]』です。売れ行きが良かったので2冊目に勧められて出したのが『人間関係がちょっとラクになる「聞き方」の基本』。聞き方についてプリント・オン・デマンド(紙の書籍型)でも提供できるように内容を補強したのが『人生が変わる会話術』です。自分が続けている聞き方セミナーの経験も活かして「こうすればもっと伝わるんじゃないか」と思ったことをブラッシュアップしました。

その後、編集者さんからの問題提起で「著者さんたちはコンテンツ持っているけど書けない人が多い」ということで、解決するために『立てる・埋める・直す 3ステップで確実に書き上がる ビジネス書実用書の書き方』を出しました。これが2018年4月です。

丘村奈央子

編集者さんが著者さんに「これを見てやってみて」と渡せるものがほしいといわれたのが始まりです。「書けるかわからない」と迷う人が「自分でも書けるかもしれない」と思ってくれて、1冊分のコンテンツをアウトプットできるように考えた本です。

- うちの代表に本を書けっていわれているんですよ。いくつか類書を持ってるんですけど、今回の電子書籍を見て「ああこれ」ってなったんです。文字数や目次から構成を落とし込んでいって、めっちゃ教科書って思っています。

ありがとうございます。あまりに抽象的な話だとやったことない人はわからないだろうと思ったので、なるべく砕いて、簡単にステップを上れるようにしました。

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決め手は目次と文字数

本のために必要文字数を提示されてどういう手順で乗り越えたか。まず自分のできる量を小分けして考えて、それに合わせて目次立てをして、あとは走り続ける=書き続ける、後ろを振り返らないというのが、自分のやってきたやり方でした。「皆さんもこの方法を試してみたらいかがですか」というのがこちらの本です。

ブックライターでもあるので自分としてはライターに頼んでもらったほうが仕事になるというのはあるんですけど、予算的に難しい、できれは自分の手でやり遂げたい方も多いと思います。そういう方にはこれを読んでいただきたいですね。

- 自分はすごくいいと思いますよ。どんぴしゃにやってきたと思っています。この帯にある「今のステージを変えられる」とはどんな意味ですか。

アウトプットを体系立てられれば企画書に落とし込めるし、その企画書から出版できるかもしれない。出版企画も原稿がある程度整っているほうが検討しやすいと思うんです。「まだ頭の中にしかないけどこの企画で本を書きたいです」というよりは、整ってなくてもある分量を提出できれば世界観が伝わります。

書き出す・書き切るのが一番パワーが要るところですが、アウトプットしたら出版までつながるかもしれない。出版で自分のステージが変わるかもしれない。これは強調しましょうと編集者さんが帯にフレーズをつけてくれました。

- 目次が立てられてまとめてあれば全然違いますもんね。

自分のノウハウが形になってまとまれば自信になるし、他者の目が入ればブラッシュアップすることもできる。書いている最中に自分のやっていることを客観視もできる。そのプロセスだけでもコンテンツに対する視点や捉え方が変わったり、頭がすっきりしたり、やるべきこと/やらなくてよいことがはっきりしたり、自分にまつわる情報を整理するきっかけにはなるんですよ。

分ければ書ける

書くための心構えも、ただの精神論じゃなくて「この気持ちまで引き上げるためにこう分けるんだ」というロジックを理解できれば作ることができます。ブログなどで数百字や数千字を書き慣れてる人も多いので、積み重ねれば1冊ってできるんですよ。

- ここまで砕いてあると1歩目がわかりますよ。自分の目次作りでやることって、その500字・1000字・1500字っていうのを1個ずつ作っていくだけなんだなみたいな。

私の師匠である作家の上阪徹さんはブックライター塾を主宰する方なんですけど、そこで教えられて自分もやってみたのがコンテンツの小分けでした。10万字も50本に分ければ1本2000字だよね、2000字なら書けそうでしょ、と視点の転換を教えていただいたんです。2000字が自分に合わない場合どうするか、アレンジしたのが今回の本で。

- 僕は参考書になると思います。うちの会社は企画書から本を書くやり方はわかるんですけど、ここまで落とし込んではいないじゃないですか。だから、いい物を手に入れたなって思ってるんです。

出版プロデューサーさんの立場から見ても「コンテンツがあるのに書けない方」が多いと思うんです。著者さんたちを後押しするツールにもなるので活用してほしいですね。自分にしかできない部分をやって、あとはプロ任せる

- 出版社の方が使える本にした?

そうですね。出版するということは、編集してくれる編集者さんがいるということ。そちらにお任せできることはお任せしていいと思っています。書き手の経験や考え方は書き手がアウトプットできたら一番いい。スムーズにその作業を行うために書き手はどうやって膨大な量を組み直せばいいか、それを書いています。

安心できる「環境をつくる」それが流儀

- 仕事している上で決めていること、自分のやり方としていることは何ですか。

私の今の仕事は人からの話があってこそなので、気持ちよく話していただくのが一番かなと思っています。それは「相手の方に安心していただく」というのもあるし「自分の仕事の条件を定めて安心して聞く」というのも含みます。取材するときは両方をちゃんと整えたあとでお会いすると決めています。整えた上で、取材時はお互い良いコンテンツを作ることだけに集中できるようにする。

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- これから頑張る人へ向けて自分が大事にしてきたことを教えてください。

腰が重くなりがちな自分への戒めもありますが、思いついたら動いちゃうのが早いなと思います。例えば私はサイトやセルフマガジンを作っていて、お見せすると「すごいですね」「真似したいです」と褒めていただきますが「私もいつか作ろうと思います」と言われると「いや今日やってください」と返したくなりますし、実際言っています。1ページもののサイトは無料サービスを使えばすぐできますし。

ライターと名乗って経歴をオープンにしたらやらざるを得ません。そうやって自分を追い込むのもありではないでしょうか。名刺を作ったら、周りの認識が「この職業の人なんだ」と変わる。この料金で引き受けますと言ったら、やらないと嘘つきになる。自分のキャパからするとちょっと上ぐらいが一番成長できると思うので、まず行動するといいですよ。「えいっ」とやったこと自体が糧になる。

失敗しても大丈夫、小さい波紋から作れ

失敗しちゃっても「この方法は駄目だったか」と引けばいい。私はライターの仕事だったので、パソコンとネットさえあれば何とかとかなりました。そういう初期投資の少ない業種に限るのかもしれないですけど、思い切って宣言して動き出すのはありだと思いますね。

- 小さいことでも、動けば変化って起きる?

小さい石でもポトンと落とすと波紋がわーっと広がりますよね。それはもう消せないので自分で奮い立たせて続きをやる、そんな感じです。変化したくない場合もあるし、しないほうがいい場合ももちろんある。人それぞれなんですけど、「これは」と思ったときに試してみるのは悪くないと思います。

丘村奈央子

【略歴】
丘村 奈央子(おかむらなおこ)
インタビューライター/ブックライター

1973年長野県生まれ、信州大学人文学部卒業、松本市の日刊の新聞社に広告営業として就職。2000年から(株)ベネッセコーポレーション『進研ゼミ』で高3生の国語/社会科の編集・進行管理・校正に携わる。2004年9月から1年半中国と韓国に語学留学、旧HSK8級を取得。結婚後は関西に在住、大手電機メーカー・シャープ(株)広報室で社内報編集職に就く。2010年5月にフリーライターとして独立、エディラボ代表。2012年5月から横浜市在住。現在は企業広報やオフィシャルサイトの文章作成のほか、ブックライターとして年数冊の書籍(商業出版・企業出版)執筆に携わっている。自著の電子書籍第3弾『人生が変わる会話術』は有料kindleの月替わりセールに何度も選ばれ、最高ランキングは全体27位。2018年4月には第4弾『立てる・埋める・直す 3ステップで確実に書き上がる ビジネス書実用書の書き方』を刊行した。

インタビューライター丘村奈央子サイト