「利他の精神」で営業成績が最下位からトップクラスへ!境地に立ったときに発見した、「こころの営業」とは?

「利他の精神」で営業成績が最下位からトップクラスへ!境地に立ったときに発見した、「こころの営業」とは?

余儀なく飛び込んだ訪問販売の世界で、独自の「こころの営業」という営業法を確立し、驚異の販売実績をたたき出した坂本玖実子(さかもと・くみこ)さん。元来、人とコミュニケーションをとることが苦手で、セールスに不向きな性格だったと言います。そんな坂本さんがどのような経緯で「こころの営業」に辿り着いたのか、とことん聞き取らせていただきました。

頑張らなくとも一日3200万円売れました。

お客様の幸せが、自分の利益になって返ってくる営業法

私の現在の活動は、「こころの営業」という営業法を、企業や経営者の方々へ向けて講演したり、研修するのが中心ですね。「こころの営業」とは言葉の通り、心を込めた営業です。

営業はどうしてもお客様の幸せよりも、「儲けたい」「利益をあげたい」という方に目が向いてしまいがちです。もちろん、儲けることは悪いことではありませんし、利益をあげることも大切ですが、「こころの営業」はお客様の幸せを一番に願い、自分の扱う商品を通じてお客様に幸せになってもらう。その結果として、自分に利益が返ってくるという営業法なんですね。

私は起業して11年目に入りましたが、ただただ愚直というくらいに「こころの営業」をずっと伝え続けています。天から与えられた私の使命だと思っているんです。

営業が嫌いな人でも、やりたくなる

「お客様を幸せにするため」というのは、どの企業も理念に謳ってはいますし、朝礼などでも「お客さまのために」と唱和したりするのでしょうけど、実際その通りできているかは疑問ですね。

「こころの営業」の講演後に、講演へ来てくれた方々と話をしたり、感想を聞く機会があるのですが、営業についての当たり前すぎることでも皆さん意外とできていないし、当たり前のことを誰からも教えてもらっていないんです。上司からは売上件数や売上金額の数字のことをずっと言われるだけだそうで、それを聞いてもうビックリしました。

坂本玖実子

「この営業の仕方を今まで誰も教えてくれなかった」「このやり方だったら自分も営業の仕事ができます」と言ってくれる方がけっこういるんです。「営業が苦手」「営業ができない、嫌い」と言ってた方が、「営業をやってみたくなりました」なんておっしゃることも。私が伝え続けている「こころの営業」は、当たり前でありながら意外に今までやっていない営業の仕方なんです。

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「こころの営業」は、「我利」ではなく、「利他」の精神から

「こころの営業」は「利他」の精神の営業なんです。利他というのは、元々「自利利他」という仏教用語からきています。まずは他者の利益を願うことで、巡り巡って自分に利益が返ってくるということです。これと同じように、まず利他を優先することが「こころの営業」です。この自利利他の考え方、精神の持ち方、心の在り様は、営業に限らずどんな場合でも大切なことですが、この反対語もまた仏教用語の中にあり、「我利我利」といいます。

「ガリガリ亡者」という言葉を聞いたことありませんか?昔はよく聞いた言葉ですけど、自分の利益しか考えない人のことを「ガリガリ亡者」と呼びました。「我利我利」であっても一時は儲けることができますが、今の時代はそれを継続して繁栄することはできません。我利我利でもよかった時代は確かにありました。大量に生産して、大量に売れたバブルの頃です。

あの頃は「他人が持っているから」「テレビで見たから」「人気だから」という理由で、本当に必要かどうかもわからないのにただ買うということに喜びを感じていたんですね。今はそういう人は減っています。自分が納得しているものでなければ買わないんです。もう押し付けの営業や、お客様の財産を盗むような泥棒営業で売れる時代じゃありません。

お客様の潜在ニーズを引き出してあげる

では、単純にお客様が喜ぶものをお勧めすれば、お客様の幸せにつながるのでしょうか?
実は本当のニーズって、お客様自身意外と認識していません。

例えば、「布団を買いに行ったわけではないのに、布団を買って帰って大変満足した」。それは布団に対する潜在的なニーズがあったからです。お客様のニーズには、顕在ニーズと潜在ニーズというものがあります。顕在ニーズは自分で気付いている欲求、潜在ニーズは自分で気付いていない欲求です。今はもう潜在的なニーズを引き出せないと売れない時代になっていますよね。

例えば、テレビを見ていて、好きなタレントがカッコいい真っ白なソファに座っていた。真っ白でスタイリッシュで、背もたれが低く、座面は堅く、アームも低いイスだとしましょう。そのソファが欲しくなって、自分の生活に見合うかどうかも考えずに買いに行く。これは顕在ニーズでの買い物です。

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でも現実の自分の毎日を思えば、家ではリラックスできるソファに座りたいですよね?足やひじを乗せるところがあったらいいな。本当は首も支えられるものだったらいいけど、あの白いソファじゃ、背もたれが低くて疲れそうだし、汚れるし気を使ってリラックスなんてできない。この場合の潜在ニーズは、「リラックスしたい、気兼ねなく使いたい、座っていて疲れない」という便利な機能性なんですね。

坂本玖実子

新婚さんだとソファに並んで座りますけど、ある程度の時間がたつとそんなこともなくなりますよね。3人掛けで真ん中にテーブルが出て、下から足乗せも出て、遠からず近からずのパーソナルスペースがあれば、お互いにリラックスできて一緒にテレビも見られます。それが潜在ニーズだったりするんです。それを引き出してあげないと今は売れないし、本当の満足は得られません。お客様の幸せを願って、潜在ニーズを引き出すのが「こころの営業」です。

そのためには、お客様のお役立つに立つために必要なスキル、コミュニケーションスキルを学ぶ必要があります。それを勉強してマスターすることで、短い時間で潜在ニーズを引き出し、わかりやすい説明をお客様にすることができるのです。

「こころの営業」を見つけるまで

― 営業で実績もあって、出版もされてる現在ですが、元々はコミュニケーションがまるで苦手だったそうですね?どういう変化を遂げて、今日にまで至ったのですか?

あまり信じてもらえないんですけど、私は人との付き合いができない人間だったんでした。その原因は子どもの頃の家庭環境にあると思っています。コンプレックスのかたまりで、「自分なんか生まれてきちゃいけなかったんだ」、そんなふうに思っていたんです。

とにかく生きているのがイヤでたまらなかったですね。だから内にこもって、どうにか生きてるような子供時代だったんです。ですから友達も作れないし、勉強する気力もない。よく姉たちに「いるんだか、いないんだかわからない」と言われていましたね。母が働いてたので、姉が保育園に迎えに来てくれるんですけど、いつも砂場の隅にひとりでいるような影の薄い子どもでした。

夫ともコミュニケーションがとれずに離婚

コミュニケーションが下手で、人付き合いができないまま大人になってしまったのですが、それでも27歳の時に結婚しました。出会って3か月目くらいでしたが、相手の条件がなかなかよかったので、ろくにコミュニケーションもとらないまま決めた結婚でした。

結婚後、生活は恵まれてたんですけれど、夫はたいへんな亭主関白でした。コミュニケーションが下手な私は、夫に話しかけるのが怖くて、家の中でおどおどしてました。今時そんな奥さんいませんよね(笑)。なので向こうは余計に威張るんですよ。子どもができたので専業主婦だったのですが、働かないのにいい生活させてもらってる引け目みたいなものがあって、さらにおどおどしちゃうし、夫はさらに威張るしで…。私が話しかけても相槌すら打ってくれない状態でした。

それでも一度、意を決して「もっと会話をしてほしい」と頼んだことがあったんです。その時、夫から「おまえなんか何にもできないんだから黙ってろ」と怒鳴られて、もう完全にあきらめました。会話もなく、ついには離婚という次第でしたね。

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人が怖いのに、飛び込み営業へ

離婚したのは38歳の時です。11年間主婦でしたし、手に職もない、そして子どもが小児ぜんそくだったので、ある程度時間が自由になる仕事を一生懸命に探していたら、エイボンという化粧品会社がマネジャーを募集していて採用されました。でもマネジャーといっても、仕事は飛び込みセールスだったんですね。

坂本玖実子

営業や販売なんて一切やったことありませんでした。机で書類見たり、数字を見たり、そんな事務仕事しかやったことがなく、人とコミュニケーションをとることができない私が飛び込みセールス。もちろん、子どもを抱えているので辞めることはできません。

当然ですけど、まったく売れませんでした。とにかくインターフォンを押すのが怖い。お客様を目の前にすると怖いんです。人が怖い、でも売らなくちゃいけないですから、もうべらべら一方的にしゃべってました。そういう一方的な営業の人って一番嫌われるんですよね。だからせっかくドアを開けてくれた人にも、すぐ閉められちゃったりしました。

強引な営業

それでも10日目くらいに初めて売れたんです。その時はもう嬉しくて、嬉しくて。でも次に行った時はドアを開けてもらえませんでした。あんなに感じのいい奥さんだったのに、なにがいけなかったんだろうって、その時はまるでわからなくてすごく傷ついたんですね。きっと一方的にしゃべって、押し付けて、相手の話は聞かない、売りたいものだけ売りつける、そんな強引な営業だったのかもしれません。

後から考えたら、おとなしい奥さんでしたので、きっと断り切れなかったんでしょうね。私は人と接するのが苦手だし、営業って迷惑な仕事なんだと思っていました。その後も断られ続ける日々がみじめで、泣きながら仕事をしていたんです。

売り上げは最下位続き

入社して4か月、成績はずっと最下位でした。私より売れない人は誰もいない。本当にその4か月は3、4年の長さに感じましたね。朝起きると、怒鳴られたり嫌われたりのみじめな一日が始まるって、イヤな気持ちになりました。

朝、保育園に5歳の下の子どもを連れて行って、会社から提供される車で自分の持ち場へ行くんです。9時から17時まで、誰にも管理されないで1軒1軒まわりました。私はサボるということができないんですよ。お給料もらってるのにそんなことはいけないって。真面目で不器用なんですけど、自分では長所だと思ってます。だけど押し付け営業、おどおど営業だから、もう断られ続けて、泣いてばかりの毎日でした。

坂本玖実子

結婚した当初は年に2、3回、海外旅行にファーストクラスで行って、五つ星ホテルに泊まってなんて、恵まれてる以上だったんですけど、その極端な変わり様が余計にみじめだったんですね。

損得より、相手の幸せを願うことに気がつく

でもある時から、ただ心の持ち方を変えただけで、突然売れ始めたんです。心の持ち方を変えた、つまりそれが「こころの営業」との出会いだったとも言えるんですね。「イヤだ、つらい」と泣いてた毎日だったんですけど、ある日私は気がついたんです。「人生こんなじゃもったいない、こんな生活のために夫と別れたんじゃない、もっと自分を輝かせたいんだ!」と。

それに、小さい頃から「人の役に立ちたい」という想いもあったんですね。マザー・テレサを尊敬していたんです。彼女のように人の役に立つことができれば、「こんな自分でも生まれてきた価値がある、自分で自分を認めることができる」、そう思っていたんです。だから営業の仕事をしている私は、ただ売るんじゃなく、お客様にとって良いものを売ることで人の役に立とうと決めました。

それでとにかく、どういう声がインターフォンから聞こえたら、ドアを開けてくれる気になるかを考えました。私が専業主婦の時、飛び込みセールスはほとんど断っていましたが、1年に一人くらいは話を聞いてみようかなと思える人もいたんです。笑顔で押し付けがましさがなくて、私の話もよく聞いてくれるような人です。おどおどインタフォン押して、自信なさげな声で、ドアを開ければ一方的にまくしたてて、売ろう売ろうとする。そんな人は絶対にイヤでしたけど、でもそれってその時までの私だったんですね。やっと気がつきました。

マザー・テレサのように目の前の人の幸せだけを願って、自分の損得よりも、まず相手の幸せを願うためにはどうしたらいいかを考えた営業をしようと思ったんです。そう思った途端に、初めて体の奥からエネルギーがわいてくる気がしました。

初めて気持ちよくインターフォンを押せたとき

インターフォンを押す前に、ドアの向こうに肌で悩んでる人がいて、私はその人を幸せにできるんだと思ったら震えが止まったんです。あれだけ気持ちよくインターフォンを押せたのは初めてで、「こんにちわ」って堂々と声を出せたのも初めてでしたね。「今、みなさんに試供品をお渡ししてます」「試供品、お使いになってみませんか?」とお声掛けしたら、ドアが開きました。「今、どんなことにお困りですか?」「もっとこうなりたいって、どんなことですか?」なんて問いかけが、自然にできたんです。

坂本玖実子

そのうちに質問するコツもだんだんわかってきて、相手のことをもっと知りたいと思ったら用意して行ったことばかりを投げかけてもダメだということもわかりました。それだと浅い答えしか引き出せないんですね。会社の研修で習ったことをマニュアル通りの質問に答えてくれはしても、短い話で終わっちゃうんです。「その人をもっと知ろう、もっと役に立とう」と思うのならば、その人に話をしてもらい、真剣に耳を傾けるんです。

そうすれば、その中からこちらの問いが出てくるんです。「そういう商品をお使いなんですね。どこが気に入ってるんでしょう?」「その香りが好きなんですね」「いつから始めたんですか?」「私もアロマに興味があるんですよ」というように、その人の興味にどんどん入って行けるんです。そうなれば相手のほうから面白いように話題が出てきて、家の中に通してくれて、ゆっくり話もできるようになります。

「役に立とう」という気持ちで売れるように

話ができれば、例えば「こういう香りが好き」「敏感肌だから天然のものがいい」「まだ子どもが小さいことだし、あまりお金と手間をかけずに肌がきれいになればいい」などという潜在ニーズがつかめるんですね。それは相手にとっては当たり前のことなので、ことさら自分から言わなきゃという意識がないのです。

ですから、話の中から潜在ニーズを引き出せるかどうかなんです。それで、この人にはあの商品がいいなと思い浮かんできます。そこで「こういう商品はどうですか?」「こういう商品もあるんですよ」「これだと手間もかからないし、予算的にもそれほど高くなくてリーズナブル。でも自然のものだから安心して使えますよ」と提案すると、「それいいですね」と言って頂けます。

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思いがけなかったけれど自分が望んでいたものを勧められると、お客様は喜んでくれるんですね。本当に楽々と商品が売れるようになったんです。「売ろう」としてた時はすごく苦しかったのに、「売ろう」じゃなくて「役に立とう」という気持ちになっただけなので、すごく楽しいんですよ。

こころの営業で、数字はついてくる

― セミナー、研修などで「こころの営業」を講演されてると思いますが、みなさん話を聞く前と後では違いますか?

違うという手応えはあります。人の役に立ちたいと思ってる人には、私の話は響くんですね。ものすごく浸みてるんだと思います。だから「こころの営業」に共感するし、明日からやってみようと思うんです。

百人受講生がいたら百人ともに響いてほしいと思いますけど、そうはいきませんよね。でも、それでいいと思うんです。間違ったやり方を教えられて苦しんでいる人が、少しでも「いい話を聞いた、明日から頑張ろう」と思ってくれればいいと思います。

坂本玖実子

本当にトップ級の売り上げの人は、みんな間違いなく「こころの営業」をやっているんです。お客様を喜ばせるのが大好き。お客さまをビックリさせるのが大好き。そんな人がトップ級なんです。

数字を無視しない

でも、「数字を意識しちゃダメ」ということではないんです。意識していいんです。むしろ数字は意識しないとついてきません。犬と同じで、無視したら嫌われます。「かわいいね、ありがとね、役に立ってね」と、数字にいつも感謝してればいいんですよ。そうすれば言うことを聞いてくれるんです。ただお客様を目の前にした時、その数字のスイッチは切ります。役に立つこと、喜ばせることに集中すれば、数字はついてきてくれます。

「こころの営業」を徹底的にやったら1、2割のプラスじゃなくて、2倍、3倍、時には10倍というビックリするような売り上げ数字が出てくるんです。

イヤな営業をなくしたい

私は営業のプロと言われていますけど、いまだに「営業ができてない」と思っているんです。それは「営業としてやっている意識がない」ということなんですね。

出版した本も1年で1000冊は手売りすると決めたんです。周りから「そんなことができるわけない、バカか」と言われちゃいました。出版社にいる姉に言わせれば、手売りで200冊売ったらすごいことだそうですけど、私は1年で2000冊以上手売りしました。でも売ろうとしたことは一度もありません。とにかく、私のこの考え方をひとりでも多くの人に知ってほしいし、それでイヤな営業をなくしたい思いだけなんです。

こころの営業を伝えることは、天から与えられた使命

私の考えは時代が変わっても、大切で普遍的なものだと思うんですね。私はもうすぐ64歳になりますから、もう営業とは違う方向へと思っていたんですけど、やっぱり営業の方を向いて、仕事を取って来ちゃうんです。ですから営業の意識はないつもりなんですけど、このまま続けて行くのもいいかなと思います。70代、80代になっても、私の「こころの営業」を聞きに来てくれる人がいる限り、それを伝えて行こうと思っています。

「こころの営業」はそれこそ心の中のことなので、なかなか難しいところもあるんです。それでも伝え続ける価値はあるし、天から与えられた私の使命ですから、今後も講演を中心に活動していきます。それと同時に研修をもう一度見直して、心をもっと強く、迷わないための研修を目指したいと考えています。

坂本玖実子の「こころの営業」というオリジナルな研修をもっときちっとした形にします。土台があり何かのマネをして作るものではないのですが、それでも試行錯誤しながら準備をしています。

それに、「こころの営業」の講師を育てることも今までやってこなかったんですね。次代の講師を増やすことも大切なことだと思っています。

坂本玖実子

【略歴】
坂本玖実子(さかもとくみこ)
株式会社クラスモア代表取締役。講演家、研修講師、コンサルタント。

38歳の時に離婚し、シングルマザーとして2人の子どもを育てながら、化粧品会社エイボンに入社して、セールスに不向きな性格にもかかわらず、訪問販売を始める。独自に確立した「こころの営業」スタイルで、最下位からトップクラスにランクされ、大塚家具に移ってからは、一日3200万円という驚異の売り上げを記録する。
50代で人材育成会社クラスモアを設立、社員研修やコンサルティングに携わった。2011年、中国四川省の百貨店で講演を行うなど、現在は企業や団体などの講演を中心に活躍中。

株式会社クラスモア