インターネットクレジット決済詐欺と戦う縁の下の力持ち

インターネットクレジット決済詐欺と戦う縁の下の力持ち

現在、日本で唯一のECビジネス事業者へネット万引き(※)を防ぐ不正対策コンサルティングサービスや、ネット万引きによる損失をカバーするチャージバック保証サービスを提供する株式会社アクルの取締役COO渡辺貴宏(わたなべたかひろ)氏にプロの流儀をとことん聞き取らせていただきます。

「良いことあるかな」そんな思いでアメリカへ

― 経歴を拝見すると、日本から突然アメリカへ渡られているのですが、そのあたりの背景を伺わせてください。

最初に就職したのは大手人材派遣会社なのですが、大学在学中に特にやりたいこともなくて、「単に雰囲気の良い会社に就職できたらいいな」という思いで就職活動をしていました。入社当時はオフィスも働いている人も、今思えば自分には不釣り合いなくらいキラキラしていて眩しかったのを覚えています。

不安を感じたからこそ行動できる

― 人材派遣会社からアメリカへ行くことになったきっかけは何ですか?

派遣会社の営業職として3年間働いたのですが、働き始めて2年が過ぎたころ海外留学を考え始めていました。外向的でたくさんの人に会って、エネルギッシュにどんどん進めていける人には適した職場でしたが、自分はそうではなく、このままこの会社にいることに不安を覚えていました。

派遣スタッフの方で英語が話せる人は時給や評価が高かったので、「漠然と英語を話せるようになると良いことあるかな」と。それで英語ができる人の経歴を調べたところ、1、2年、海外留学をされていたんですね。であればと、勤めながら資金を貯めて会社を辞め、アメリカカリフォルニア州へ渡りました。

待たせたなカリフォルニア!

留学の目的は英語の習得でしたが「カリフォルニアにいることで次の仕事を見つけるきっかけにもなるかもしれない。」と思っていました。でも実はサーフィンが物凄く好きだったので、どちらかというと本当の目的はサーフィンだったかもしれないですね。朝起きて波に乗って、着替えて学校行って、またビーチに行って走るみたいな(笑)。

他にもアメリカの文化やファッションやインテリア、バイクや車にも興味があったので、特別何かリサーチをしてからカリフォルニアにしたというわけではなかったのですが、結果的にカリフォルニアで良かったです。

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英語の勉強なんて必要ない!

― アメリカに行く前に英語の勉強はされたのですか?

全然していません(笑)。向こうに行ってしまえば何とかなるだろうと言う思いです。「英語の勉強なんて日本で勉強しても意味はないよ」と、よく聞いていたので、とりあえず行っちゃえ!という感じした。アメリカに渡ってから、英語の学校へ通い始め、最初は言っていることが全く分からなかったのですが、2週間ぐらい経つとだんだん言っていることがわかるようになりましたね。

― 学校の下調べは念入りにしたのですか?

これも全然していないんですよ。学校選びは、海にほどよく近くて、学費の安い中から選んで決めたつもりだったのですが、単純な計算間違いにより選んだ学校がなぜかとても学費の高いUC系(University of California)の学校だったというオチが付いてまして(笑)。

でも結果的にその選んだ学校は大正解で、学校も場所も物凄く自分にとって良い環境になりました。計算間違いといい、何かに導かれたような気もしないでもないです。

遊びながらも堅実にスキルを積み重ねた日々

最初は車もなく学校とホームステイの家の間25キロの距離を、バスを乗り継いでの移動も大変だったのですが、徐々に言葉も理解できるようになり、半年ほどで車も購入し移動の自由を手に入れてからは本当に充実した日々を過ごせました。海と学校と家をひたすら往復していましたが(笑)。

― アメリカはどのくらいの期間過ごしたのですか?

アメリカには2年間いたのですがその間に英語もある程度話せるようになり、コミュニティーカレッジにも通いマーケティングを学びました。サティフィケイト(特定の課程や科目を修了して知識・ 技能を習得した証明となる認可証)も取得し、アメリカでも働けるビザを取得できるようなところまで来ました。

そこでアメリカと日本で就職活動を始めたところ、日本企業からオファーをもらって東京で働くことになり帰国となりました。育ちはずっと関西だったので東京で働くのは初めてでした。

ネットバブル到来。ドコモを調べろ!

― その会社はどこで知ったのですか?

その当時(2000年頃)はちょうどネットバブルと騒がれていた時で、日本ではADSLもまだまだの時代でした。アメリカに滞在していた当時は、インターネットは常時接続が当たり前でしたので、すでにアメリカではインターネットでいろんな情報を手に入れることが自然にできていました。Googleという会社も名前が出てきたばかりで、まだ当時はみんなYahoo!で検索をしていた頃でしたね。

注目のビジネスモデル

マーケティングの授業の中で、「ネットは今どうやってお金を稼ぐか?」がとても重要になっていると先生から話が出ました。Googleもまだまだ、Amazonでさえ、リアル店舗を持たないモデルより、クリックアンドモルタル(ネットとリアルの両方)のほうがいいと言われていたタイミングでした。そこで先生より「お前は日本人だからドコモを調べてみろ」と言われたんです。「ドコモって携帯電話の会社だよな?先生何を言ってるのだろう。」と思っていたのですが、それがiモードという仕組みについての話だったのです。

先生は、「ドコモがネットの月額利用料200円とか300円というお金を携帯料金と一緒に回収し、ネット事業者にとってお客さんへ課金ができるというモデルが凄いんだ!」と言っていました。つまり、「お客さんはあまり意識することなくネット利用料を携帯料金と一緒に払っている。」というポイントに先生は驚いていましたね。

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アメリカと日本のネット認識の大きな違い

当時アメリカではネットでお金が取れないのに、日本ではネットでお金を取れる。アメリカでは有料となった瞬間に誰もお金を払わなくなり、客離れが進む。「ネットにお金なんか払うものか!」というアメリカとは違い、日本では自然に料金を払う仕組みができているという事をしっかり調べてレポートにして提出しろという課題が与えられたんです。

それがきっかけで、いろいろとネットに関する企業のことを調べていたら、ソニーグループの会社が、インターネット上でのクレジットカード決済システムを提供していることを知り、履歴書を送り面接受ける事となりました。

「クレジットカードで買い物なんて!」と言われていた時代

その当時(2001年)の面接では「インターネットで物買ったことある?」と聞かれ、「パソコン買いました。」「どうやって買ったの?」「クレジットカードで買いました。」「よくカードで買ったねー!怖くなかったの?」と、クレジットカード決済の仕組みを提供している会社の役員の方が驚いていました。しかも「俺たちはまだ怖くて買えない」と、その時言っていたのを覚えています(笑)。

― ネットでのクレジットカード決済は今では当たり前ですが、確かに初期のころは危険という認識がありましたよね。

ネットでのカード決済はアメリカでは当たり前のことでしたが、日本ではまだまだ浸透していないということで、私のアメリカでの「クレジットカードでパソコンを買ったと」いう経験だけをかってもらい(笑)採用して頂きました。

当時のアメリカの体験から見た日本の未来

当時は基本ネットで買ったものは、銀行振り込みでの支払いが主流でした。まだコンビニ決済もなく、振込みもATMや銀行まで行かなければいけない時代でした。ただでさえ支払にはネガティブな感情が伴うのに、そんな手間のかかる支払はネットに適していなく、私は近い将来ネットでの支払いは絶対にクレジットカード決済が当たり前になっていくと思っていました。

実際カード決済はネットでの支払方法では主流となり、クレジットカード決済システムは年率150%以上の伸びで急速に成長していったのですが、リーマンショック後の世の中の不景気の流れやソニーグループの再編などもあり、その会社はダメになってしまったのです。

カード決済ビジネス含め、いくつかの部署のみ他の会社に吸収されたりして存続したのですが、私が面接を受け就職した会社自体は無くなってしまい、そのタイミングで会社を離れることになりました。その会社があればまだ働いていたかもしれませんね。

チャージバックVS詐欺

― それがきっかけで、今の会社を立ち上げることになったのですか?

チャージバックというのはカード決済ビジネスをしている時に知ったのですが、チャージバックとは平たく言うと、クレジットカード会員がクレジットカードの不正使用による損害を受けないために、カードブランド(VISAやMASTERなど)が定めたルールのひとつなんですね。

詐欺を行う人は、色々な手口で人のカード情報を入手し、そのカードで商品を買い、商品を受け取り、商品を売って、換金する。カードの持ち主は自分のカードで身に覚えのない商品が買われていることをカード会社に連絡する。カード会社はその不正に決済された代金をカードの持ち主には請求しない。お金の出所がないので商品を売ったお店にはカード会社はお金を支払わない。つまり最終的には損失を受けるのは商品を売ったお店になってしまうのです。

詐欺の責任はお店が被るという理不尽を知る

普通に考えると、注文を受けてクレジットカードが使用できるかをカード会社へ照会して、そのクレジットカードが使えると承認が出てから商品を送っているので、別にお店が悪いわけじゃないのですが、ネット決済では約款上、カード会社ではなくお店側の過失になってしまうんです。業界にいるとそれが普通なのですが、「一般的にはなんかおかしいな、これって不公平だよね」というところに、我々のビジネス誕生のきっかけがあります。

お店からすると、自分たちが悪いわけではない上に、カード会社には加盟店手数料も取られていて、あり得ない状態なんです。ブロックチェーンの技術をもったビットコインなんかは、今では投機対象だったり、諸悪の根源などという人もいたりしますが、手数料も安く、チャージバックのようなリスクもないというのを売りに、決済・送金手段としても注目されています。今後は、ネット決済はクレジットカードではなく、他のものへ変わっていく可能性が十分あると思いますね。

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保険とチャージバック専門サービスの違いとは?

ー チャージバックを専門に扱っている会社は他にあるのですか?

専門で扱っているのは日本では我々だけかもしれません。保険会社さんも一部補償を行っているところもあるようです。ただ保険会社さんは補償してくれるだけでチャージバックの根本的な解決は、この特殊な業界についての経験は浅いこともあり、苦手のようです。我々は不正を減らす対策をした上でチャージバック保証させてもらっていることも考えると、根本からそれらの問題を解決していく提案をしているのは我々だけだと思います。

― 保険とチャージバックサービスの違いはなんですか

保証という面だけ見ると、保険も同じかもしれません。ただ世の中歪んだものにしたくないので、ご契約いただいているお店にはリスクのありかを伝え、不正利用者がクレジットカードによる悪用をさせないようにアドバイスしています。

まだまだ伸びるネット決済市場だからこそ私たちが必要だ!

例えばチャージバックが起こったときに明らかにリスクの高いところに手放しで商品を送っている場合などは、補償されないこともあるとしっかり伝える。クレジットカードの不正利用が原因で、おかしな所にお金が流れてしまうという事は、さらなる大きな犯罪にもつながる恐れがあります。根本からチャージバックとなってしまう原因を解決していくという部分が保険とは大きく違います。

カード決済不正利用者に狙われないために

ちょっとしたお店の業務改善のひとつが、不正利用者に狙われないお店づくりに繋がり、結果、お店の運営に大きな違いを生みだす力となっていきます。そのために、我々の存在をもっと広めていければと考えています。将来的にはクレジット決済が他のものに変わっていく流れに、我々もついていく、というより、我々が牽引していくような存在になっていきたいですね。

仕事の流儀を知る

― 仕事を進める上で意識していることはありますか?

「これは何のため?誰のため?誰が喜んでくれるんだっけ?」ということを意識しながら仕事をすること。お客さんにわかってもらうために説明する。それを意識するから話し方も変わってくると思う。面倒くさい細々した仕事なども何のためにやっているのか?を意識することで頑張れると思うのです。

今の仕事のメンバーは営業バリバリではありませんが、それはそれで自分たちを認めて、お客さんにも認めてもらいながら地道にサービスを展開していくことが必要だと思っています。

編集後記

― インターネット過渡期からその道のプロとして技術と知識を高められてこられ、現在のチャージバック対策への想いを伺うことが出来ました。
まだまだ広がるIoTの未来には、クレジットの不正利用のような仕組みの隙をついた悪用など、地味に目立たない不正が起こる可能性が十分あり、渡辺さんのような縁の下の力持ち的な会社がもっと必要になってくるのではないかと感じました。

【略歴】
渡辺 貴宏 (わたなべ たかひろ)
株式会社アクル 取締役COO
フロードマーケットアナリスト チャージバックシニアコンサルタント
1972年生まれ。兵庫県出身。 
大学卒業後、大手人材派遣会社に営業として勤務。3年で退職後、ITバブル、クリックアンドモルタルでネットビジネスに一目が置かれていた2000年にカリフォルニアに留学し、マーケティングとインターネットビジネスを修学。帰国後ソニーファイナンスインターナショナル、NTTデータ、決済代行会社などにてネットでの決済システムの企画、推進に従事。現在はECビジネス事業者へ不正対策コンサルティングサービスやチャージバック保証サービスを提供する株式会社アクルの取締役COOとして活躍している。
(この記事は2018年2月にインタビューされた内容です。)

株式会社アクル
https://akuru-inc.com/

※ネット万引き:不正に入手したクレジットカード番号を用い、ネットショップで換金目的に商品を買う行為。ネット万引きされたネットショップは、クレジットカード会社からお金が支払われず、商品代金分の損失を被る。