高校を中退し、九九さえも苦手だと言う成田勉(なりたつとむ)さんは、ゼロから始めた不動産業で家賃収入が一億円にまでに上りつめた不動産投資家だ。バブルやリーマンショックも乗り越えてきた成田さんに、リスクが少ない不動産投資術をとことん聞き取らせていただきました。
年間売上1億円
本業は不動産投資大家業です。それと名古屋市北区で、みゆき旅館というゲストハウスをやっております。このみゆき旅館は、廃業した旅館を和風のゲストハウスに再生したもので、大体お客様の7、8割が外国人です。大家業とゲストハウスの売り上げが年間で1億円くらいになります。
ー 大家業は具体的にどの位の規模でやられているのですか?
戸数でいえば114戸、売却した物件もあるので、全部で150戸以上やってきていますね。元々僕は、無認可保育園を経営していたんです。事業としてはまぁまぁうまく行っていたと思うんですけども、それでもやっぱり収入的にいうと不安定な職だったんですね。無認可保育園というのは年度で園児さんを集めるのですが、4月になると認可保育園の方へ行ってしまう子が多いので、園児数がガツンと減っちゃうんですよ。
年度の頭の3ヶ月は赤字で、前半でとんとん、後半で黒字を出すという事業形態でした。毎年新規で園児を集めていくので、「このまま食べていくのは多分しんどいなぁ…」と思っていました。自分もやっていくうちに疲弊してきて、なんとか他の仕事で食べられるようになろうと思った時に、大家業という権利収入を考えたんです。
[adchord]小さな規模から確実に
僕は時間をかけてやっている方だと思いますね。一番最初にやり始めたのは、空いてる土地に車庫を作りました。ガレージを。あとは小さな区分マンション、投資用ワンルームを中古で購入し、小さな規模から始めていきました。ただ、自営業だと当初は融資をあまり受けられなかったので、融資を受けるまでに数年はかかりました。
ー 計画を立てながら規模を大きくしていったのですか?
計画していたというよりは、「とりあえずはここまでいこう」というラインというのはありました。僕の場合は、家賃収入で年間3000万円いくといいなぁと思ったんです。年間3000万円の家賃でいくと、ローンを返済して、管理費払ってとりあえず残りが一千万以上になれば、保育園の方を辞めても暮らしていけるだろうという考えでした。
実際にやってみてクリアしていくと、意外と大したことなくて、「じゃあ次は6000万円位考えてみようかなぁ 」という感じでした。3000万円くらいだと、ちょっといい物件を2つ3つ買えば行けない事はないですよ。
ー 名古屋の物件を購入されたのですか?
名古屋の物件も買っていましたが、北海道でも買っていました。一時期、北海道は利回りがすごく高かったんですけど、今はそんなに高くないから遠方の人がやるメリットは正直どうなのかなとは思います。当時は北海道で買っただけで、家賃収入の売上げベースは1000万円は超えていました。
コツコツやることが成功の秘訣
ー 不動産投資で「うまくいく人・いかない人」の傾向はありますか?
不動産投資って、不動産貸付・不動産賃貸業という実業ビジネスなんですよ。お金を払って住んでくれるお客様・入居者がいないと話にならないし、逆に言えば部屋を埋める為に必死で色んなこと考えなきゃいけない。それがすごく当たり前なのですが、「物件を買えさえすればいい。」という感覚が割合あると思うんですね。
でも、そうじゃない。不動産業者さんというのは売ることありきなので、オーナーが儲かろうが儲かるまいが関係ない訳だから、埋まらない物件ばかり買ってしまう人は失敗してしまいますね。大々的に広告を打っているところなどは、本当は結構難しい物件は多いと思います。
実はつい数年前まで、「不動産投資は誰でもうまくいく」と思ってたんです。というのは、僕はお金を借りられない所から小さくコツコツとやってきて、ある意味地主さんではないので土地活用の営業とは縁が無かったし、お金持ちのサラリーマンでもなかったので、投資用の大きな物件を買えるという立場ではなかったんです。
ここ最近の、かぼちゃの馬車とスルガ銀行の事件がすごく特殊なんですけど、普通に言ったら借りられないんですよ。だからこそコツコツやりさえすればそんな大失敗はしないはずなんですね。その違いだと思います。
物件をしっかり調査する
いわゆる業者さんが宣伝する無料セミナーがありますが、そのセミナーで業者さんの物件を買うのはどうなのか、考える必要がありますね。どんな不動産屋さんでもそうなんですけど、やはり不動産屋が扱っている物件には良い物件もあればそうじゃない物件もあります。
ましてや良い物件というのはごく一部なので、そのごく一部の物件だけを買えばいいんですけど、良し悪しを判断できなければ買わされちゃいますよね。例えば、新築のアパートやマンションを作って売る会社があります。その会社の中でも厳密にいうと、良い物件とそうじゃない物件はあるはずなんです。
[adchord]間取りだとか仕様とか建物は一緒でも、どこに建てるかによって違うはずなんですよね。そこはやっぱり調査するというのが大切で、その調査した結果に基づいて物件を買っていくという事が大切なんじゃないかなと思います。
成功に必要な場
― これから不動産投資を始める方に、「ここは外せない」というポイントがあれば教えてください。
不動産投資を色々見てきて思うのは、自力でちゃんとできる人はすごく一握りだということです。僕自身は、誰かにやれと言われた訳じゃないけど、不動産投資に関する本は何百冊と読んでますし、セミナーもたくさん行っています。その中で試行錯誤しながらやってきて今があるんですね。だけどそこまで色々情報を集めて買う人は、振り返ってみると実はすごく少ないです。
僕の場合、このまま保育園をやってても絶対食べていけないだろうなという危機感があって、そうせざるを得なかった事情があったんですね。だけど「何となく不安だから始める」という人は、成功させるための行動が真剣じゃありません。だから多くの人が成功するためには「良い場」が必要だと思うんです。
人それぞれに合ったやり方
僕の本には、不動産実務検定講師や不動産投資家育成協会認定講師といった肩書も書いてありますけど、大家さんや大家さんになりたい人に大家業のことを教えたりもしているんですよ。
融資が受けられる人には受けられる人のやり方、 全然融資が受けられない人には受けられない人のやり方があり、やれる事は人によって違います。融資が受けられる力があることは、それはすごくいいことなんですけど、大失敗しちゃうリスクもあるので正しく考えることが必要です。縦関係があって信じ込ませるような学校・スクール・業者さんはやっぱりダメです。
完璧な物件は僕らには降りてこないですよ。より完璧に近づけば近づくほど資金力を持っている業者がいます(笑)。だから僕らはメリット・デメリットをちゃんと把握して、「デメリットよりメリットが大きいな」という物件を、かつ自分が負けないラインというのをちゃんと見て、負けない物件をコツコツ買い続けることが大切です。
自分でやる
物件は上を見たらキリがないです。青い鳥を追いかけすぎちゃうと、結局物件が買えなくなって評論家になっちゃうんですよ。そして人の物件にケチをつけるという。そういう風になっても意味がないですよね。ケチつけてる本人が物件持ってるかと言ったら全然持って無いとか、そういう事は不動産の勉強会ではすごくよくある話なんです。
僕は今でも自分で物件を探してますし、本当に良い物件でタイミングが良くて買える状況なら買います。僕は買わないけどアリな物件もありますよ。アリだけど地域が合わなかったり、今やりたい規模じゃない物件は、どんどん生徒さんに譲っています。ただ、良い可能性・負けない物件である可能性が高いというだけなので、「それをちゃんと確認するのは自分の作業だよ。調べ方は全部教えるから。」という形でやってますね。
[adchord]資産よりも大切なこと
ここ数年、規模の大小が注目を浴びる時代になっています。僕も家賃年収を合計すれば1億円超えていますけども、実は本当に言いたいのはそこじゃないんですよね。多くの人にとってみれば、安心して安定させられる10万円、20万円あったら人生が楽になるし、人生が変わる、人生の質が上がるんじゃないですか?という事です。最初からそんなすごい事を考えなくてもよくて、まずはしっかり地盤を固めましょう。
夢って叶っちゃうと、別にそれが普通になって大した事じゃなくなっちゃうんです。金融資産を1億円持ってることよりも大切なこと、仲間・家族・自分の自由な時間・嫌いな人と付き合わなくていいだとか、そういう事の方が大切だと思います。
縁がもたらした出版
― 『高校中退父さんのみるみるお金が増える不動産投資の授業』を出版されるに至った経緯は?
不動産を教えている経験は長いので、僕の周りには不動産関係の出版をしてる人がすごく多かったんです。「本、出さないの?」とすごく言われていたんですけど、ご縁ですね。そういうご縁が繋がれば出版って割合スムーズにいくものです。
僕は雑草的なんで、すごく色んな事を試してきてるタイプの不動産投資家なんですよ。前職は保育園の経営だったので、不動産投資という表面的な事だけじゃなくて、子育て・家庭・人間関係というところにも濃厚に触れたかったというのがありました。最初の企画を持ち込んだ時点では半分くらいは教育の観点にもっていきたかったんですけど、出版社と話し合う中で「教育の本はあまり売れないから」と言われたので、不動産投資の割合がぐぐっと増えてこの本が出来上がりました。
小学校の算数ができれば、不動産投資はわかる
僕は高校中退ですので、実はもう九九すら苦手です。不動産投資の話って、すごく難しい金融工学的な表現をするので、「難しくすると素人を丸め込むのに都合がいいのかな」と僕は思っていました。実は単純に小学生の算数で不動産投資は分かります。だから算数レベルで計算して儲かるか儲からないかという話なんですよ。
簡単に、「月に家賃収入が100万円あるとしたら、ローンが一番大きい支払いになるからローンの返済比率は半分以下にしましょうね。」という話です。返済比率が半分超える物件は、その収入がなくたって良いレベルの大きさだったり、借金を返す事でちゃんと内部留保が出来る物件であればいいいですね。
返済比率が半分以下でちゃんとお金が残るようにやりましょう、そうじゃない場合はそれを超えるメリットがあるような物件だけやりましょうということです。借金を返した後、最終的に売却した時にちゃんとお金をガバっと回収できるような物件ですね。
一発逆転を狙わない
― 不動産投資というと、一発逆転のイメージを持ってる人が多いと思うのですが…(笑)
あはは(笑)今の時代、特に一発逆転は狙わない方がいいですね。僕は35歳からやって、今51歳なので16年。バブルの時もリーマンショックの時も、不動産投資というものをやって見てきています。今は正直、不動産は安くないです。この先上がるか下がるかは分からないです。
ただやっぱり、かぼちゃの馬車とスルガ銀行問題で、融資も締まってきてるんで若干下がるかなとは思ってはいるんですけど、やっぱりどうなるか分からないので、そう考えると不動産が高い時に一発逆転を狙いすぎない方が良いですね。やはり、負けない物件で足場を作っておくというのが良いかなと思っています。
[adchord]人口減少がもたらす影響は?
― 日本の人口がどんどん減っていく分、空き物件が多くなっていくという話も耳にするのですが、それについてお伺いします。
16年やってきて見てると、正直大家業は厳しくなってきていますし、今後もより厳しくなっていくと思います。16年前は不動産投資の情報なんてあまり出回ってなくて、自分で手探りで試行錯誤しながらやるものでした。それが今はこんなに情報が出回ってますし、新築は建っている、人口は減っている、状況が悪いのは当然です。
ただ一つ言えるのは、人口減少の問題は日本にあるすべての業種に当てはまるんですよ。その中で市場が最も大きくて、いわゆる安定収入がそれでもまだ考えられるのはやっぱり大家業かなと思います。満室が売上げの上限ですが、その代わり、コツコツ積み上げてきちんと経営してればブレも大きくないんですよ。時期によって売上に差がある商売はたくさんありますが、大家業は非常に安定しているし、大家業である程度ベースがあれば、他の商売をやってもいいと思うんですよね。
続いていくチャレンジ
時期によって売上に差がある、それが僕にとってはみゆき旅館であったりします。外国人のインバウンドでは、3月なんかドカンと売上げ上がりますけれど、他の月はピークの半分くらいしか売上げはありません。売上げが半分位しかないと、手残りなんていうのはもうほんとに数分の一です。あるラインを超えると、売上げが少し上がるだけで手残り益は倍になる、商売とはそういうものです。
ただ2018年6月15日で民泊新法ができ、闇民泊はバタバタと閉められている状況の中で、逆に言うときちんと法律を守ってやればこの宿泊・民泊のジャンルも面白いかなと僕は思っています。
実はですね、みゆき旅館以外にも民泊新法を通して他の申請にもチャレンジしています。今180日しかゲストを泊められないけど僕は大家で自分所有の部屋でやるので、そうするともうブルーオーシャンですね。家賃収入よりも売上げが上がれば御の字です。ですから、いつの時代でもチャンスはあると思います。
みんなで豊かに!
僕は「本にサインしてくれ」と言われたら、“みんなで豊かに”と書くんですね。やっぱり豊かな仲間がいるということは楽しいですよ。不動産投資で成功して表に出る事は、メリットばかりじゃないと思うのですが、ただ僕はそんな仲間が増えればいいなと思ってやっています。なので、「ご縁があればどこかでお会いしましょう」ということですかね。
【略歴】
成田勉(なりたつとむ)
不動産実務検定講師、不動産投資家育成協会認定講師、J-REC公認コンサルタント、良質計画合同会社代表
1966年生まれ、名古屋市出身。不動産投資家として多くの手法を実践し、総投資138戸、現在10棟114戸の家賃年収は9000万円。ゲストハウス「みゆき旅館」経営。「家主と地主」オーナーズコラム執筆。全国で講演家として活躍。賃貸住宅フェア、エイブルオーナーズセミナー、岡山大家塾、東京大家塾、広島大家塾、福山大家塾、北海道大家塾など講演実績多数。元認可外保育園園長、トマス・ゴードン博士の親業訓練講座、岸英光のコーチング、家庭心理学を学び、多くの子育て経験から「子どもがイキイキ伸びる方法」を提唱する。