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米倉誠一郎先生が伝える、日本経済を成長させる真のイノベーションとは?

米倉誠一郎先生が伝える、日本経済を成長させる真のイノベーションとは?

“イノベーション”という言葉は、私たちの耳に随分聞きなれたものとなってきました。しかし日本で真のイノベーションを生み出す人はどのくらいいるのでしょうか?日本のイノベーション・マネジメントの大家、一橋大学イノベーション研究センター特任教授、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授である米倉誠一郎(よねくらせいいちろう)先生に、日本がもっとクリエイティブな社会になっていくための視点を、その熱く愛のある言葉からとことん聞き取りました。

米倉誠一郎

イノベーションとは、新しい組み合わせ

イノベーションというと日本では「技術革新」と訳すことが多のですが、もともと提唱したシュムペーターという人の定義はもっと幅広くて、一番大事なのは「新しい組み合わせ」だと言ったんですね。すでにあるものを組み合わせること。

例えば、“イヤーヘッドホンとテープレコーダーを組み合わせたらウォークマンになった”“工場のベルトコンベアとお寿司やさんを組み合わせたら回転寿司になった”とかね。一番大切なのは、社会経済に新しい価値を生む新しい組み合わせがイノベーションなんです。技術の革新だけをいうわけではないのです。

米倉誠一郎

5つのイノベーション

― 組み合わせというのは、モノとモノの組み合わせですか?

シュムペーターがあげた組み合わせは5つあります。

一つ目はまったく新しい商品のこと。代表的なものでいうとトランジスタ・PC・テスラ・i-Phoneなど。

二つ目には新しいやり方。作り方を変えるとか行程を変えるといった、ものは同じだけどやり方を変えるということ。代表的なものは、モジュラー化をしたデルやセルの生産方式。

三つ目は、新しいマーケットを探すこと。「女子会」という形で居酒屋が女性のマーケットを開拓したり、SHISEIDOが男性用化粧品で男性というマーケットを開拓したり、コンビニが、今までは若者に焦点をあてていたけど、シニアに焦点を当てたりすることです。今や歩いていって小割で食材が買えるということで、高齢者にとってそれはまさにコンビニエンスなんですよね。

それを見つけた瞬間にマーケットがシフトしていますよね。マーケットといっても物理的なものだけじゃなくて、ジェンダーやエイジ、時間といったものも含まれます。

四つ目は素材。新しい素材を発見する事。下着に素材革命なんてないだろうと思っていたところに、ユニクロがヒートテックっていうものを導入したのが大きかったと思うんですよね。

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あとは、土や海に還るプラスチック、ユーグレナオイル、スパイパーの人工のくもの糸もそうです。素材自体を本気で変えていこうというイノベーションもあるのです。

オープン・イノベーションとは

― では五つ目は?

新しい組織です。新しい組織とは何か?今はみんなが口にしているのは、オープン・イノベーションです。一つの組織ではもうとても出来ないから、オープンにして小さい企業も大きい企業も一緒になって商品開発をしてみようというのは新しい組織形態だと思います。もちろん、事業部判や分社化も組織革新です。

iPhoneだって開けてみれば色々な会社のものがいっぱいつまっています。プラットフォームを作り、そこにアプリケーションを書いてくれとオープンにした。そうしたら、たくさんの小さい会社がアプリをあげたわけですよね。それでみんなが便利だと使った。ひとつひとつの会社はアプリケーションで儲かっている。アップルはそのプラットフォームを作ることによって収益をあげている。

スピードの効用

オープン化のもうひとつの理由はスピードです。スピードをあげるとどんないいことがあるかというと、一つには新商品を次々開発することで高いマージンが取れる。二つ目は、早く出せるということは、一年間にひとつしかできなかったものが一年間にふたつできるということですから、開発費を半分にできる。

マージンがとれて開発費も抑えられて市場に早くだせるということは、それだけ先行者利益を享受して参入障壁を築けるということです。日本企業の致命的な部分は、“遅い”ということですから、僕は手法としてオープンイノベーションってすごく大事だと思っています。

組織マネジメントの本質

― ではこの5つの組み合わせがイノベーションなのですね。

そうです。そしてイノベーション・マネジメントとはどういうことかというと、その組み合わせをいかに新たに発見するか、今のマーケットの中でどうやって加速していくかということなんです。

イノベーションを生み出すには、イノベーションが生まれるような組織やゴール設定が必要であり、そういう仕組みを作るのがイノベーション・マネジメントなのです。そのためには技術もそうですが、組織をどんな組織にしたらイノベーションをするのかを考えることが重要です。

米倉誠一郎

新しい時代に合わせた変化

― 先生は、現在の日本の経済というものをどのようにとらえてらっしゃいますか?

1990年、日本のバブルが崩壊して、それまで右肩上がりで成長してきたものが、それ以降フラット化した。その当時世界で第三位だった一人あたりのGDPが現在22~25位ですから、何が起こったのかというと実は明らかで、日本企業の国際競争力が落ちているということです。

当時はキャッチアップというゴールがあって、みんなが24時間365日働けますかっていうので、朝7時に家を出て、夜11時に家に帰ってくるというのを続けていた。いわゆる、男でおじさんで、一応いい大学を出てさえいれば、そういう人がマネジメントしていればよかった時代が、明らかに90年代以降変わってしまった。

― それでは立ち行かなくなってきたと。

はい。今まで成功してきたものが成功しなくなったんだから、やり方を変えなきゃいけない。もちろん、マネジメントも変えなければいけないし、組織の在り方も変えなければいけない。

キャッチアップするモデルは、より安く、より小さくという方法でよかった。日本の同一的で、チームワーク・ハードワークの組織はそれはそれでよかった。でも新しいものを作り出したり、みんなが思いもしなかった商品を生み出すというのは、組織自体がダイバーシティが高いほうがいいんですね。

ところが多様性がないというところが日本の組織の根本的課題なのに、時代が悪いんじゃない?新しい方法を入れなきゃいけない?と小手先の対応をしている。そうじゃない。1990年までにワークしたモノリスティック、年功序列、一年間新卒一括採用、そういうものが実は新しい時代に合わなくなっていることが根源的な理由です。

世界のスタンダードから取り残される日本

― それを聞いていると「働き方改革」なんてやっている場合じゃないというか・・・

本当にそうですよ。例えばSONY。去年約7350億円かな。20年ぶりの最高益なんですよ。日本ではSONY復活っていう諞調ですよね。

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そこでちょっと韓国をみてみると、Samsungの利益は5兆4200億円なんです。売上じゃないですよ、利益が5兆4200億円なんですよ。別に何か違うことをやったわけじゃない。M&Aをやったり、金融に出てきたり、映画を買ったりしているわけではない。半導体・液晶パネル・スマートフォン・白物家電というベーシックなものだけ。これだけで何十兆という売り上げをあげて、利益が5兆円。しかも会長は死にかけてて、副会長は刑務所入っていて、ギャラクシーは火を噴いている(笑)

日本にいるとそういうネガティブな報告しかみないから、SONY7350億すごい!ってなるのかもしれないけど、僕からすると「は?」って感じです。

― 世界をみると、とても小さいですね。

Appleは6兆4000億円だからね。という意味では本当に日本って、世界のスタンダードからはずれて、いまだに生温くて心地いいところにいるよねと思いますね。うちの学生は、洋服の青山しか喜ばない黒いスーツ着て、大手町駆け回って、意味のないコピペのエントリーシート?もう時間の無駄。やり方を変えるときです。

わくわくして仕事してる?

先日、カルビーの元会長の松本晃さんが言っていたのですが、社員が望んでいるのは当然いい給料。つまり、豊かな生活ができるということ。しかしそれ以上に何を求めているかというと、わくわくすることだそうです。「会社にいったら面白いな」「今日はどんなことをするのかな」と生き生きとした人間がイキイキとした仕事をするというのが会社です。

最近、日本の会社って面白そうじゃない。「今日も来たぜー、今日もやるぜー」っていう感覚で仕事に来る人が少ない。昔はこんなんじゃなかった。

野中幾次郎先生という先輩がいたのですが、先生はいつも朝6時半から研究室に来てて、僕が頑張って8時半とかにくると、「遅いな」と言うわけですよ(笑)逆に夜結構遅くまで頑張って帰ろうとすると、「早いな」と言われるわけです。
だけど、もう毎日この先生たちと働くのが楽しくて、いやだなんて思ったことはなかった。もちろん残業代もつかないし公務員だから月給も安かったけど、本当に次に何が起こるのかと毎日楽しくて。

米倉誠一郎

言葉だけが先走るワークライフバランス

― 楽しかったらそもそも、気にならないものかもしれないですね。

ワークライフバランスを一日の中で考えているようじゃだめだと思う。20代や結婚する前は、24時間365日働いたって面白い。それが面白くないとしたら、その会社や転職の在り方が間違っているんですね。ノブレスオブリージという責任あるエリートたちが、一日の中でのワークが9時―17時なんてことしていたら、日本人みんな貧乏になっちゃう。
 
シリコンバレーや深圳に行ったら、それこそ24時間365日働いているわけです。そこへ行って、「9時―17時で僕は働きます」だなんて言ってられない。結婚したり子どもができたりすれば、やっぱりバランスをとるのが大事。ライフサイクル上、必要なタイミングはある。女性を登用するうえで、必要な働き方というのももちろんある。でも、次の日本を担うリーダーたちが自分を含めて“ワークライフバランス”とか言ったら、僕はぶんなぐってやりたいね(笑)

「なんで?」がイノベーションを追い求める

― 先生がイノベーションに興味をもったきっかけは?

なんだったんだろう?僕の卒業論文は明治期のセメント工場でした。セメントは、初期近代化の一番重要な基礎物資です。港を作る、道路を作る、鉄道を作る。これって近代化の基礎物質。原料は日本にもあるが、「昨日までちょんまげで脇差の人間がそれをやろうと思うのは、どういう心境なのかな」というのが僕の卒業論文だった。

その後大学院に行って、小野旧セメントの研究をしている時に、一橋大学商学部産業経営研究所の助手に採用されました。その入所式当日に野中幾次郎先生に出会いました。4月1日にお互い採用されて、かたや大教授、かたや僕は助手。初めて会ったときに、僕からすれば大スターの野中先生に、「君が米倉くんか!僕たちは同期だよな」と肩を組まれて言われたらもう。「参りました、ついていきます」となってしまったのです(笑)

― 自由な空気を感じますね。

本当にすごくありがたい環境にいました。今井賢一という先生が所長でいらっしゃったのですが、助手で入って3か月目に「僕アメリカに行きたいです、野中先生も行けって言ってます」と平気で言える雰囲気でした。

普通は「お前何言ってるんだ」となるところですが、「おお、いいなあ」と言ってくださった。「それでどこに行くんだ?」と聞かれたときに、当時アメリカの大学ひとつしか知らなかったので「え?ハーバードでしょう」って言ったら、「おぉいいじゃないかー!」で決まりでした。

それでアメリカに行って何をやったかというと、当時日本の鉄鋼業がアメリカを抜いて世界一位だった。鉄鉱石も石炭も大してないのに何で1位なんだ?と。それが僕のハーバードの博士論文でした。そのころから「なんでだ?」というのが僕のエンジンになっていて。それってイノベーションを追い求めるということだったのですね。

明治維新は日本の制度的イノベーション

― 先生の学生さんはイノベーターの卵ですか?

まだまだですねぇ(笑)うちの学生たちが「日本人ってイノベーティブじゃないですよね」なんて言うんです。外国人が言うならまだしも。それで頭きて書いたのが「イノベーターたちの日本史」という本です。昔の日本人って、とんでもなくクリエイティブじゃないかということを伝えたかった。

明治維新というのは、徳川という封建制を倒すという革命だったが、倒した主体は封建制の一部だった。倒してみてわかったのは、自分たちの給料が一番財政を圧迫している。これは切らなきゃいけない。じゃあ身分を公債して、身分を買おうという発想をした。その一方で国立銀行を作って、公債を資本に換え、侍たちに新しい職を与え、アントレプレナーにした。

士族たちの多くは失敗したが、威張っていたからではない。彼らは難しいことに挑戦したのです。日本に近代産業を取り入れるという大チャレンジだった。ようするに今でいうと、ファーストペンギンの役割を担った。荒れ狂う海に一羽飛び込まないと誰も飛び込まない。その役割を担ったのが士族だったわけです。そうやって考えると、身分を資本にして、侍たちをアントレプレナーにした、明治維新はものすごくクリエイティブだなあと。そういうことを書いたのです。

本質的な問題を見るということ

― 学生さんは、「今の日本がイノベーティブじゃない」と言いたかったのかもしれませんね。

確かに今の日本はひどい。消費税がまた2%あがります。元々、社会保障と年金一体改革で財政健全化の第一歩でした。しかし何を勘違いしたのか安倍政権は「教育を無償化にする」と言った。教育無償化って最もクリエイティブじゃない政策です。小学生だって、教育大事!どうしたらいい?じゃあタダ!くらいのことは思いつくわけです。

米倉誠一郎

タダにするってことは、今の教育の在り方を温存するというわけです。そんなんで本当にいいのか?時代は変わっていて、一橋大学出ておけばいい会社にいける!いい人生が送れる!なんて時代じゃ全然なくなっているのに、その教育を温存させることでいいんだろうか?

イノベーションがエンジンとなる資本主義の在り方

イギリスの政策で失敗したもので、教育バウチャー制度というのがありました。バウチャーっていうのはいわゆるクーポン券。
これまでは学校側に政府や自治体が補助金を出していました。バウチャー制度は、子供一人に対して国や地方自治体が100万円、200万円の補助を、直接子どもに配る方法です。それで自分の好きな学校行っていいと。そうすると、親と子どもで考えるようになる。どの学校がいいか、どういう風に新しいことをやっているのかなどを考えて学校を選ぶようになる。そうすると、いい学校は生徒も補助金もどんどん増えていく。手抜きの学校や、昔ながらのことをやっている学校は生徒も来ないし、予算もない。
では、生徒もこないし、予算もない学校はどうなると思いますか?

― 消えちゃう?

と思うでしょう。ところがイノベーションを信じる我々の想定では、彼らはきっと頑張るのです。自分たちの何が負けてるんだろう?どうしたらいいんだろう?そうすると、ベストプラクティスでいい学校に学んだり、いい先生を呼んできたり、やり方を変えていく。これこそイノベーションがエンジンとなる資本主義の在り方です。

どうにかしようと考える、芽を摘んではいけない

残念ながら今の日本は、その人間性とイノベーションがエンジンだということを信じていないから、Uber(ウーバー)が入ってきたら規制したりするわけです。タクシー会社が立ち行かなくなるんじゃないかと考える。でも僕はUber(ウーバー)はすぐにでもOKにするべきだと思う。圧倒的に便利だし、ユーザー志向。じゃあそうなったとき、タクシー会社は困る。さあどうするか?

― タクシー会社がよくなるために考える。

そうなんです。絶対負けないサービスはなんなのかを考える。また一方で、個人がそんなタクシー会社みたいなことをして事故があったらどうするかという問題もある。じゃあどうする?

― 保険がさらに発達する?

そう。東京海上やソニー保険、あるいは新しいベンチャーがまた考えるだろうね。また別に、素人がそんな運転手やっていいのかという問題もあるかもしれない。タクシー運転手っていうのは道を覚えるプロという一面がありますよね。でもそんなものGoogle Mapがあるじゃないですか。賢いそのアプリの使い方を覚えればできるわけですよね。そうしたら、使い方を教える教習所みたいなものを必ず誰かが作る。

この「考えていく」ということこそがエンジンなわけです。世の中がよくなっていくっていう。そこを信じてやるというのがクリエイティブなんです。
そういう意味でいうと、昔の日本はいうのはすごくクリエイティブだったと思うわけです。ポピュリズム、耳に心地よいことばっかりをみんな言って、厳しい競争や新しい世界を受け入れない。それでは何も起こらない。

― 問題があるからダメではなくて、そこから考えていくのですね。

そうです。このグローバル化の中でどうやって戦っていけるか考える必要があるのです。日本のサービスがどんどんつまらなくなったり画一化しているのもやっぱり考えていないからです。

企業家とは、新しい価値を生み出すひと

アントレプレナーっていう言葉がありますよね。それを日本語では起業家と訳す。昔は“企てる”で“企”業家だったのに、“起”になったのは残念です。

アントレプレナー(企業家)は会社を起こす人だけじゃない。新しいことを企てる、考える人なんです。だから、医者の中にも公務員の中にもいるしサラリーマンの中にもいます。イノベーションをやる人がアントレプレナーなんだ。いまベンチャーをやる人だけがアントレプレナーみたいに言われてるけどそうじゃない。

例えば、普通に働いている人が市役所に行ける時間って、昼休みしかないでしょう。でも市役所の窓口も同じように12時~13時で昼休みをとってたら、一番いけるときに行けない。そこで当番制にして市役所の窓口を開けておくようにした。僕はね、これは立派なイノベーションだと思う。

市民が自分の顧客であることに気づいた。そればかりか、自分の給料を払っているのは市長ではなく、目の前の市民だと気づいたのです。それをやった人はアントレプレナーなんです。小さいことでもいい。新しい価値を社会経済に創っていくこと、それができたらみんなアントレプレナーです。

米倉誠一郎

完璧を目指す前に生みだすことが大事

― イノベーションってすごく難しくて、0から1を生むというイメージだったのですが、お話を聞いていると、今目の前にある、そのままになっていることを変えていくとか、新しいやり方を試してみるとか、できることいっぱいあるんだと思いました。

すべてはそういうところからなんですね。ある意味、日本人は完璧を目指しすぎるからスピードが遅い。電話って途中で切れたり音が入ったらいけないってずっとやってきたわけだけど、携帯電話が最初でたときすぐに切れたり雑音が入ってた。求められているのは通話音質じゃないと気づいてからスピードが速くなった。これはすごいパラダイム転換だったわけです。

大事なのはコミュニケーションやデータ、アプリケーションがちゃんと届くこと。すなわちイノベーション。新しい価値を社会経済に素早く創り出していくことなのです。

それはようするにいくつもいくつも失敗しながら学んで速く成長して、大きな果実をとりにいくということ。したがって、社会経済に新しい価値を与えていくことだから失敗することは何の問題もない。失敗しないと成長しない。昨日と違うものを生み出していこう。そうするとみんなわくわくしてきますよね。

Fail Early早く失敗しろ!

― 私は仕事柄、ビジネスの相談を受けるのですが、「事業計画どう書けばいいんでしょう?」と聞かれたので、「そんなものいらん、時間の無駄」だと答えました(笑)

まったくその通り。先日デザインシンキングの勉強をしにわざわざシリコンバレーまで行きました。そこではそこらじゅうに「Fail Early」と大書してある。“早く失敗しろ”って。顧客と問題点をみつけたらすぐ解決策を実行する。最初は絶対失敗するんだけど、そこからいかに学んで成長するか。大企業でもこのサイクルをまわされたら勝てっこない。だからほんと事業計画うんぬんいらない。もう来週からスタート!

転んだやつは座ってるやつより偉い

― 日本人の失敗の概念ってすごい重たいじゃないですか。そして当然それを指さして笑う人もいるわけですよね。先生からみてその概念の変え方ってありますか?

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制度面は難しいところがありますよね。アメリカのチャプター11のような救済措置が整っておらず、倒産すると身ぐるみはがされる。そうした制度面は整備していかないといけない。それより重要なのは社会のマインドセット。僕の座右の銘は、「転んだやつを笑わない」です。だって転んだやつは、座ってたやつより絶対偉い。少なくとも前に歩こうと思ったんです。それを笑っていたら絶対進歩はない。失敗しないと企業家はいい企業家になれません。

人間の可能性を信じる

― イノベーションがもっと起きていくために必要なことは?

「人を信じる」ことですね。人間を信じること。

ヨーロッパで少子高齢化が日本ほど大きな問題にならないのはなぜか?それはそういう社会経済を創っているからです。日本だけなぜこんなに問題になっているかというと、若者だけに負担を負わせようとしているから。かつて、若者の上に二人くらいの老人が乗っていたのに、これからは十二人が乗るようになっていくから、もう破綻するっていうロジックの「大変だ」なんです。

ところがヨーロッパでは、老人を支えるのは社会の構成員全員だと考えている。若者だけじゃない。老人も老人を支えるし、中間層も老人を支えるし、若者も老人を支える。みんなで高齢化社会を支える。少子高齢化が進んでも、お互い様で先送りしない。

そのしくみを実現しているのが、消費税を25%という高税率です。ジジイの僕が買ったって25%払う、若いにいちゃんが買ったって25%払う。全体のプールで老人をみようというやり方です。ところが日本は高度経済成長時代のモデルに依存していて、働いている人の未来を食いつぶして、消費税率は世界で最低水準。その転換に気が付かないで大変だ大変だって言っているわけ。

米倉誠一郎

だからこそ今求められているのは「老後は社会全体で面倒みるから、消費税25%は我慢してほしい」「そういう社会にしましょう」と言ってくれるリーダーシップなんです。そういうのをだれも本気で語らないから、日本はどんどんどんどんダメになっていく。日本人の可能性を信じていない。

イノベーションっていうのは、「人を信じる」こと。「絶対に知恵をだす」と。だからみんなが豊かになる社会になるためには、規制は解放していこうということがイノベーション。

単一の評価軸・見せかけの平等がイノベーションを殺している

― 今こそ変えるために考えていかないといけない。

多様性を受け入れることです。
以前どこかの学校で、“運動会の競争はみんなで手をつないでゴールしてみんなが1位です”、というのをやってて、腹が立ちすぎて電話かけようかと思ったんだけど電話番号がわからなくてかけなかった(笑)

足の速い奴を馬鹿にしているの?っていう話で。足が速いって価値があります。掃除がうまいのも価値があるし、音楽や絵が上手いのも価値があるし、優しいというのも価値がある。それを算数や理科や社会は点数で順位をつけるのに、体育だけは全員一等賞というのはおかしいでしょう。

日本人の自己価値が低い理由

日、米、英、仏、独、スウェーデン、韓国の7か国の比較でみたときに、日本の13歳~29歳の若者で、自分に価値があると思っているひとは45.8%しかいない。アメリカは86%くらい。韓国でさえ71.5%。日本だけ50%きってしまっている。なんでこうなるのかなと思うと、多様性のない社会の在り方だから。

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偏差値以外で、はかれないものっていっぱいある。それを小さい時から偏差値だけで計って、体育や美術、音楽は副科目。何を言っているんだという話ですよ。アート系こそが本科目で、社会や理科、算数こそサブ科目だというのが21世紀です。

日本の若者の自己肯定感が低いのは、人間の価値を測る尺度が単一で、それから漏れる子供が多いからではないでしょうか。

人間を信じる覚悟

― “みんな一緒に”では、多様性は生まれませんよね。

良い例があって、今世界で一番売れているハンディーカムってGoProなんです。あるテレビ収録にいったら、カメラマンが本格的なテレビカメラの脇にGoProをさしてるんです。「なんで?」と聞いたら、「こっちのほうが面白いものが撮れるときがあるから」と言うんですね。

GoProはサンフランシスコのサーファーが、自分がサーフィンしているところを撮りたいということで生まれました。最初はサーフィン人口を5000人と想定して売り出したら、なんとソニーやキャノンを抑えて世界で一番売れているわけですよ。つまり万人にウケようとせず、5000人くらいの本当にサーフィン好きに爆発的にヒットするもの作ろうとしたところにその秘密があるのです。

実はそういう人と違う、新しいものをみんな求めているのに、教育の場では「みんなと同じものにしなさい」という。
イノベーションというのは本当は人間を信じて、人間は面白い!と、新しいものを恐れず生み出すことなんです。人間を信じる覚悟ですね。
だから僕は、イノベーションが世界を動かしていくと信じています。

米倉誠一郎

【略歴】
米倉誠一郎(よねくらせいいちろう)
一橋大学イノベーション研究センター特任教授、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

1953年東京都生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(Ph.D.)。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。2012~14年はプレトリア大学GIBS日本研究センター所長を兼務。現在、Japan-Somaliland Open University 学長、アカデミーヒルズ日本元気塾塾長、『一橋ビジネスレビュー』編集委員長を兼務。2017年4月より現職。イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とする。
主な著作に 『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)『経営革命の構造』(岩波新書)、『創発的破壊――未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『オープン・イノベーションのマネジメント』(共編、有斐閣)などがある。

法政大学ビジネススクール

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