日本有数のパズル作家、北村良子さんに聞く思考力の秘密

パズル作家の北村良子(きたむら・りょうこ)さん。その思考力と独自の切り口で「考える力」をテーマとした著作、『論理的思考力を鍛える33の思考実験』や『考える力を鍛える論理的思考レッスン』など、多くのベストセラーを連発している北村さんに、パズル作成の秘訣とその思考力の秘密をとことん聞き取らせていただきます。

北村良子

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パズルを作る仕事

私の本業はパズルの作成です。2006年に会社を立ち上げて、少ししてからパズルを始めました。今はパズル作家を主軸としてやっています。

― 元々、北村さんの中でパズルを作ることに関する知識があったのですか?

パズルについては、元々知識があったわけではなくて、好きだったというだけです。ですので、やってみようと。

― パズル作成の依頼はどういったところからあるのですか?

イベントやキャンペーンで、パズルを解いたら商品の応募権が発生するもの、新聞のワンコーナー、雑誌の脳トレ特集、社内報などですね。お子さんにもやってほしいと思いますが、今の日本の教育って受験第一ですから、教育業界はなかなか入り込めませんね。

パズルとの出会い

中学校だったかな。教室の学級図書で、あるパズルの本に出会いました。最初は、中を見たら面白そうだったのでなんとなく手にしただけでした。夢中になったわけでもなくて、先程言ったように普通に好きという程度でした。

私は転職を繰り返したときがあって、そのときはWEBデザイナーになりたかったんです。当然、そのためにはWEBサイトを作れなきゃならない。サイトにはテーマが必要なので、その材料としてなんとなくパズルを選びました。パズルなら作れると思ったので。

そこで初めて自分でパズルを作り始めたんですが、肝心のWEBデザイナーの仕事は来なくて、パズルの注文ばかりが来るんです。そこでパズル作家という職業を知りました。パズルが仕事になるなんて思ってもみませんでした。13年くらい前ですから、20代後半のことです。

ジャンル不問のパズル作家

― パズル作家さんってどれくらいいるのでしょう?

プロとしてパズルだけを仕事にしている人は、そう多くはないと思います。その中ではナンバープレースやクロスワード専門のプロの人もいます。色々なタイプのパズル作家がいますが、私はジャンル不問でやっています。

― ジャンル不問だと、依頼する側もなにかと便利ですよね。パズルを作っている人の普段の生活に興味があります。

ふつうですよ。起きて、パソコンに向かって仕事して、ただそれだけです。かなりズボラかも(笑)。

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浮かばない時はジタバタしない

― パズルを作るのに、苦労するポイントはありますか?それともスラスラできちゃうものですか?

スッとできることもありますけれど、浮かばない時は数日かかることもあります。でも、あまりジタバタしませんね。お風呂でパッとひらめくこともあるので、ムリしないです。

― パズルを作って十数年になると思いますが、それだけ長いと前に作ったのとかぶっちゃうこともありますか?

あります。例えば、漢字をバラバラにして、それを組み立てて何になるか?というようなポピュラーなものは、ものすごい数を作ってますから、どうしても同じようなものができてしまう。そんな時はデザインを変えるなどして、少しでも違うものになるよう努力しています。

「パズル作るぞ」モードのONとOFF

― 何かを見ると全部パズルに見えちゃうなんてこと、ありませんか?

その時のアタマのモードによりますね。パズル作るぞモードだと、「あっ」と思うこともありますけど、そうじゃない時はふつうに眺めているだけです。

― パズル作るぞモードの時は、目に見えるものをどんな感覚でとらえているんでしょう。意識がONとOFFの時では、ひっかかり方がまるで違うものなんですか?

ONだからといって、目に入るものがすべてピーンとくるわけじゃないですけれど、たまにひっかかる時がある、そのくらいです。でもOFFだってひっかかることはありますよ。みなさんもそうでしょうけど、常にどこかで自分の職業は意識してるはずですから。

北村良子

ひらめきは知識があるから

― そのひっかかりの度合いを高くするには、どう意識していけばいいのでしょうか?

人それぞれに、自分が向かいたい方向があると思うんですけど、そちらの知識を増やしてみるというのがまず一つだと思います。知識と知識がつながる時、それがひらめきにもつながっていくので、ひらめくためにも知識は必要です。素材がないとひらめきもないので、やはり知識は必要ですね。

― 本を読んだり、インターネットで物を調べるなどしてですか?

ものすごくたくさん無理して知識を集める必要はないと思いますけど、興味があることはできると思いますから、知識を増やしてみるのもいいんじゃないかなと。

思考、発想のコツ

― 思考、発想には、何かコツがあるのですか? 自分の中で勝手に組み合わされるものですか?

またパズルの話になってしまいますが、パズルって「どれだけみなさんに考えてもらうか」ですし、見せ方も工夫がないと面白いと感じてもらえません。常にそう考えてきたことが、思考のヒントになってるのかなとは思います。もちろん、色々な本を読んで色々な情報を得るうちに、自然とその知識が組み合わされることが起きているのかもしれないです。

パズル作家の思考回路

― 今、発想や考え方が注目を浴びてると思います。こういう発想はどうして生まれるのか、パズルを作る人はどんな思考回路をしているのかということに、みなさん興味があると思います。

思考回路ですか。それでしたら、今回、取材のきっかけにしていただいた本『論理的な人の27の思考回路』がそれだと思います。この本はパズルをもとに、思考法について書いてあります。パズルを解く時の思考をチャートにしてみました。チャートを試してみることで、「思考がこう進むと行き止まりの×にたどり着く」ということや、「自分はこう考えるけれどこっちの道もある」ということに、気がついていただけたらと思って書いた本です。

北村良子

― ところで、今までに何冊くらい本を出されてるんでしょう?

パズルも含めると十何冊になると思います。今日お持ちした『ひらめき漢字パズル』は2013年で、2冊目のパズル本ですから、初期のほうですね。

キーワードは「考える」こと

― “思考”についての本も色々出されていますが、どうやって勉強してこられたんですか?

まさにそれがパズルだと思います。パズルをやるのは、考えるということがキーワードになってきます。その“考える”のつながりで、思考実験とか心理テストも作ります。それから哲学、心理学、脳科学というのも勉強しますけれど、全部、“考える”ことがベースになっています。大学で勉強したのはプログラミングなので、言語を打ち込むプログラマーです。ちょっと畑違いなのかもしれませんね。

あなたならどうする?トロッコの思考実験

― 『論理的思考力を鍛える33の思考実験』を読ませてもらったのですが、ものすごく面白いと思いました。暴走トロッコの行く先に5人の作業員がいて、分岐器を切り替えれば助けられるけど、切り替えた先の線路にも1人の作業員。5人を死なせるか、1人を死なせるかという思考実験のくだりがありました。

実際はあり得ない設定ですが、「大声で知らせる」「誰か気付く」など、現実的な視点をあえて外します。5人を助けるために1人を犠牲にするのか、それとも、そのまま5人を助けないのか、という選択なんです。数字だけみれば5と1ですから、多数派は5人を助ける判断をしますけど、切り替える行為で、1人とはいえ本来死ぬはずのなかった人が死ぬわけです。他人の運命に介入することになります。これは明確な回答があるわけではなくて、どう考えますか?という思考実験です。このトロッコの話はけっこう有名で、それをどう掘っていくかなのです。

― 本の企画や発想は、北村さんが全部考えているのですか?

思考実験はかなり面白いので、これで1冊書けないかなと思い、他の企画と一緒にお付き合いのある出版社に持ち込みました。その中から拾ってもらえた企画が、この本なんです。編集者の方の見極め力は「やっぱりさすがだな」と思いました。

― タイトルは誰が考えてたのですか?

出版社の方です。出版にあたってのことはすべてプロにお任せしようと思って、手出ししたことないです。きっと私では売れるタイトルは作れないでしょうから。

哲学をライトに、挑戦しやすく、身近へと

― 『論理的思考力を鍛える33の思考実験』は2017年に初版で、今14刷目(増刷)です。こんなに売れている理由は何だと思いますか?

「答えのない問題を考える」という言葉だけを切り取ると、哲学という固いイメージにリンクして、哲学と言うと、日々の生活とかけ離れた無意味なことでヒマな人がやってると思われがちなんですね。その哲学をライトに、挑戦しやすいように、身近に感じられるのがこの本だと思うのです。“論理的思考”がキーワードになるので、ビジネスとも結びついて、このキーワードが結果的に大きかったと思います。

内容に関しては、「哲学者でもないのにこれを書くのはおかしい」などと言われてしまいそうなので、とにかくパズル作家を主軸に、パズル作家から見た思考実験、パズル作家から見た心理、そういうスタンスでやっています。当然、書き方もパズル作家寄りの書き方になっていますね。段階を踏んで思考を進めていくとか、パズルを解く感じで、なるべくわかりやすく。

北村良子

紀元前からある思考実験を集めた本

― 本屋さんで本を立ち読みしていたとき、「面白い本だな」と思って著者を見たら、偶然北村さんの『考える力を鍛える論理的思考レッスン』だったことがあります。驚きました(笑)

本当ですか。ありがとうございます。そう言っていただくのは、すごくうれしいものです。『考える力を鍛える論理的思考レッスン』は、心理学や哲学をベースに、思考実験仕立てにしてお話にしました。

― 思考実験の事例というのは、たくさんあるものですか?

思考実験というものは紀元前からずっとあるものなので、事例はたくさんありますね。この本に書いたのは、有名なものもオリジナルのものもいろいろと載せました。色々な方が思考実験を行ってきているので、そういったものを楽しく読めるように解説しながら載せています。

パズル作家流“まとめ方”

― これほどの知識を蓄積するには、どれほど勉強されたんですか?

思考実験は本を書く少し前から本格的に取り組んだくらいなので、すごく長いわけでもありません。元々パズルのネタを探す時に、まずは割とこういうのをさわっていたので、色々な思考実験を知ってはいました。それでちゃんとやってみようと思って書いた本です。

― けっこうな量の情報を集められたと思うんですが、うまくまとめるための、要点をピックアップするコツ、ポイント、意識していることは?

まずは集めてみて、それをまとめます。1回まとめたら放っておいて、何日かしたらもう1回という具合に、何回かに分けてまとめていきます。そうしないと、その時の思考によっては文章がゆがんでしまったり、訳がわからなくなってしまうこともあるので、「読み返してもう1回」というのを、何度かするようにしています。

インプットしたらアウトプット

― 最初に集めるのは、良さそうだと思うものをランダムに選ぶのですか?

そうです。本とかインターネットで。ネットは、みなさんの言いたいことや心がストレートに書き込まれていて参考になります。

北村良子

― 心理学や思考については、学び始めるとキリがないですよね。しかも面白い。でも、ずっと学び続けるままの人がいる。どこかいいところで、インプットしたものをアウトプットすることが必要だと思うんです。

それはよくわかります。私もこの本が売れてからありがたいことに依頼が多くて、書くために勉強しますけれど、そうしてると、もっと学びたくなります。現実として学んでばかりはいられませんが。アウトプットは私も必要なことだと思っています。アウトプットすることで、また記憶が固定化されて、しっかりしたものになりますから重要なことです。

それぞれにいろんな答えがある

― 次の本の予定はありますか?

今、『論理的思考力を鍛える33の思考実験』の続編を書いています。

― 今度は何人を死なせるんですか?(笑)。選択といえば、昔、究極の選択なんてありましたね。

あれはばかばかしいところもありましたけれど、世の中答えがないことだらけなので、あの選択を考えるのもいいことだったのかもしれない。「論理的に考えよう」と本気で考えてみると結構面白いものも多いですよね。私の本を読んで「答えを教えてくれない」という感想があって、「ああ、そうなるのか」と少し驚きました。答えがない事象を悪くとらえる人もいるんです。パズルも複数の答えがあったりしますが、ひとつに絞れないのは許せないらしいのです。「なんでそう思うんだろう」と不思議です。

数学の答えじゃなくて、自分なりの答えを見つけて自分の意見を持つことが大切なのに、ただ答えを教えてもらおうという人が多い。答えがひとつとは限らない、それぞれに色々な答えがあるという考え方が、特に日本では弱い気がします。

読者へ期待すること

― 北村さんの今後はどう展開されるんでしょうか。みなさんに、こういうふうな考え方をしてほしいとか、そんなことがあれば最後にお聞かせください。

今年もパズルを主軸として、本を書かせていただくと思います。私の本をきっかけに、少しでもしっかりした意見を持てるようになったり、自分の考えをきちんと表現できるようになったり、そんなことを期待しながら書いていきたいと思っています。ポイントは「考える力」ということが伝われば嬉しいですね。

パズルのニーズはゼロにはならない

― パズルのニーズは絶対にすたれないですよね。

浮き沈みはあります。でも、ゼロにはならないですね。パズルブームや脳トレブームがあったりします。メディアの影響も大きいですけど。それが今はちょっと落ち着いているのですが、ゼロにはなりませんよね。それに最近は認知症予防ということで、高齢者向けのものがけっこう出ていますね。クイズ番組のニーズもありますから。

パズルは応用力、思考法を試すツール

― 「パズル」とは、一体何だと思いますか?

パズルというのは応用力を試す、思考法を試す、そんなツールじゃないでしょうか。教えてもらうのではなく、自分の知識や経験で自分なりの答えにたどり着く。学校の授業は必ず「正解」があって、そこに至る過程にも決まったルートがある。そのルートを通るのが正解と教えられます。

これにはこの公式で、ああやって、こうやってと、1本道を刷り込まれてしまうから、応用が利かないんです。パズルはどうやって解くのか、自分で考えなくちゃならないし、決まったルートなんかありません。そう考えているうちに、応用力が鍛えられるので、ものすごくいいものだと思っています。大人もぜひ、やってほしいと思います。

北村良子

【略歴】
北村良子(きたむらりょうこ)
1978年生まれ。有限会社イーソフィア代表。
パズル作家としてWEBで展開するイベントや、企業のキャンペーン、書籍や雑誌などに向けてパズルを作成する一方、考える力や思考実験などをテーマとして執筆活動を続けている。WEBでは、IQ脳.net(http://iqno.net/)、老年若脳(http://magald.com)などのサイトを運営している。
【主な著書】「論理的思考力を鍛える33の思考実験」「論理的な人の27の思考回路」「楽しみながらステップアップ!論理的思考力が6時間で身につく本」「考える力を鍛える論理的思考レッスン」など

有限会社イーソフィア
IQ脳.net
老年若脳

北村良子著書一覧