世界に通用する教養を。選書する書店「フォルケ」の目指す教育。

世界に通用する教養を。選書する書店「フォルケ」の目指す教育。

堀越吉太郎(ほりこしきちたろう)さんが五反田で経営される書店「フォルケ」は、話題の選書のサービスをはじめ、様々なイベントやセミナーが開催される場所であり、お酒を飲みながら読書を楽しむことのできる、ちょっと変わった本屋さんだ。本を通して得られる「変わらない価値」とは?とことん聞き取らせていただきました!

その人のための本を選ぶ選書

― 「選書する書店」のコンセプトとはどういったものなんですか?

いわた書店さんという、「一万円選書」として有名な書店があるのですが、そこが2014年にテレビで紹介されて一気にブームになりました。最近はNHKのプロフェッショナルで特集されていたり、色々なメディアでも紹介されています。一回選書の募集をすると一週間で1000件以上の応募がある。そのくらい人気があります。

― 「本をプロに選んでもらう」ということですか?

だいたい一万円分の本を選んでくださるんです。私も取材に行ったことがありますし、やってもらったことがあります。ここ、フォルケでやっている選書というのは、そのいわた書店さんが元になっていまして、「その人のために本を選んであげる」という書店としての新しい取り組みです。

本質を引き出す選書法

― どのように選書されるのでしょうか?

岩田さんがされているのは、3ページのアンケートを選書依頼してきた人に書いてもらいます。そのアンケートがすごくよくできているんです。岩田さんがものすごく勉強家なので、心理学などを応用して書かれていて、たった3ページなんですけど、それを書くことによってその人の本質がわかるようになっています。

岩田さんの許可を取って、そのアンケートを当社で改良しました。うちは今それを4ページにして使わせてもらっています。

― アンケートでの選書がメインなんですか?

先日テレビの取材を受けた時に、第二回THE MANZAI優勝のハマカーンの浜谷健司さんと神田伸一郎さんとアイドル一背の高い熊井友理奈さんとご一緒して、その方たちに選書をさせていただきました。そういう時には基本的には対面によるヒアリングになります。ここでも読書会やセミナーを週に何回かするのですが、そこに懇親会が必ず付きます。その懇親会の時に選書をします。それも、話をしていく中での選書です。目の前の人が自分自身の本質に気づくような質問をします。

堀越吉太郎

私はもともと新聞販売店の営業だったので、そこでの営業、つまり人の話を聞くということをすごく鍛えられていています。営業というのは短期間で仲良くなることが大切な部分だと思うのですが、そこで身に着けたノウハウやスキルを選書でも使っています。

本質×情報量=選書

― 依頼してきた方の本質を探ることもそうですけど、本を選んであげるということは、本のことを理解していないとなかなか難しいですよね。

岩田さんもおっしゃっていましたけど、選書する人は“どれだけの数の本を読んでいるか”が大きいですね。私は本当に本が好きで、10代の頃から本ばっかり読んできました。今でも年間300冊くらい読みます。速読をやっているので、10分20分で1冊読めるせいもあるのですが、常に本を2冊くらい携帯してます。さらに今は、電子書籍でも読むことが多くなっています。

ちょっと変わった本屋さん、フォルケ

― フォルケの運営を一緒にされているスタッフさんは書店関係のお仕事の方なんでしょうか?

いいえ、書店の関係者ではない人が作っている、ちょっと特殊な書店です。ここでセミナーをしたり、読書会をしたり、色々なイベントもしています。選書することを通して出版業界を盛り上げる実験場でもあるし、人脈をつくる場所でもあります。

― 一緒に運営されている方々とはどういった出会いだったんですか?

トーストマスターズというリーダーシップやスピーチを学ぶ教育のNPOがあるんです。日本だと会員は4000人くらいいて、日本での歴史は60年以上。アメリカでは100年の歴史があり、全世界で会員が30万人くらいいて、著名人がたくさん出ています。

トーストマスターズで出会った人が、この書店を一緒に作った投資家の内藤崇さんであり、公認会計士の眞山徳人さんです。みんなトーストマスターズで知り合ったメンバーです。実はここでも、トーストマスターズ(島津山トーストマスターズ)を第一金曜日に、月一回やっています。スピーチの練習をする会です。

教育系というバックボーン

― 練習ということはスピーチの仕方を教えたりしているのですか?

トーストマスターズの面白いところは、教師や講師がいないことです。先に入った人が後から入った人に教えるという、全員で教え、学びあうという自治運営をしています。私のバックボーンは教育や学問の家系なんです。父の兄が教師で、祖父も曾祖父も教師。学校がなかった時代は自分で私塾を作ってやっていたというくらい、教育家系で。教師か、あとは学者。石田梅岩の研究者が家系の中に二人いたりします。

だから自分も本質は教師だというのがわかっていて、教えるのがすごく好きなんです。例えば経営系の講演会に行くと、社長さんを相手に経営に関することを教えるから、社長さんの「教師」になります。なので、自分のしていることは系統的には合っているのかなと思っています。

2年間の引きこもりという経験

― 教えるのが好きで、本も好き。確かに系統的にばっちりですね。

でも面白い話で、勉強は好きだったんですけど、「学校」はすごい嫌いでした。学校という環境が苦手でひきこもりをした経験があります。ある進学校を半年で中退して、そのあと2年間引きこもりました。学校自体は、人間関係への不満など理由はいろいろあったんですけど、外で中学校の時の知り合いに会ったとき、「今何やっているの」と聞かれて「学校行っていない」と答えるのがすごい嫌だったんです。それで家から出られなくなりました。引きこもりって本当に怖くて、病気みたいに全然出られなくなっちゃうんです。

苦手な人間関係を変えてくれたのも本

― 今の堀越さんからはまったく想像がつかないですね。

20代くらいまでは、本当に人間関係というものが苦手でした。しかし、仕事は得意でした。先ほどもお話しした新聞販売の営業でトップセールス(全国1位)になったこともあります。ただ人と付き合うということになると苦手で避けていました。

堀越吉太郎

お酒とかも30代前半くらいまでは飲んでなかったです。新聞販売店の経営をしていく立場になった時に、やっぱりスタッフといい関係を作らないと組織としてまわっていかないと考えて、「苦手な人間関係どうしよう」「何をやったらいいんだろう」と思ったときにやっぱり頼りにしたのが本です。

そうすると、本にも“飲みニケーションが大事”だとか書いてあるわけです。一対一で話をすることが大事なんだと。そういうことを実践していきました。そうすると、すごく成果が出ていきましたし、自分も変わっていきました。やはり最後は、実践が大切です。

嫌いだと思っていたものが実は武器だった

― きっかけもやっぱり本だったんですね。

そうでしたね。もちろん人付き合いがもともとは苦手ですから、例えていうと、血を吐きながらやったような感じです。お酒飲むのも好きじゃないし、好きな人とならともかく、それほど好きじゃない人となんで仕事に関係のない話までしなきゃいけないのか、当時は理解できなかったです。

でもやってみると、どんな人にもいいところは必ずあって、人間ってやっぱり素晴らしいんだなと思えたし、話すことによってやっと理解ができるんだなと気づけました。そうすることによって、マネジメントすることや人と関わっていくことがどんどん好きになっていって、そこが自分の本質だったと気づくこともできました。“人と関係を作っていく”ということが自分の特技で、武器で、人間嫌いだと思っていたのは実は勘違いだったということなんですよね。

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背を押してくれた古典

― 素晴らしい変化ですね。引きこもりの時にはやっぱり本を読まれていたんですか?

本を読むかテレビをみるか、でしたね。自宅に日本文学全集と世界文学全集があったんです。また自宅にケーブルテレビも入っていたから古典映画をテレビで見ていました。2年間引きこもっていたからありがたいことに時間はたくさんあったので、そういうのを読んだり見たりすることをずーっと繰り返していくと、ものすごい勇気をもらえました。

「自分も何かできるんじゃないか」「何かしたい」という思いが込み上げてきたんです。そのくらい古典文学には力があるのです。ドストエフスキーや夏目漱石、森鴎外、論語や徒然草といった何百年何千年と続いてきた本のすごさ、古典のすごさを感じました。

その古典の力みたいなものを伝えたくてフォルケを始めているし、自分は本に救われたという気持ちがあるので、本や出版業界に貢献したいというのがずっとありました。色々活動をしてきた中で、始めたのがこの本屋さんだったんですよね。

百年以上読み継がれる古典のチカラ

― 一度引きこもりになるとなかなか抜け出せない、と先ほどおっしゃっていましたが、そこから変えよう!と思えたものはなんだったんでしょうか?

引きこもりたくて引きこもっている人は、やっぱり一人もいないと思います。本当は何かしたいことがそれぞれあると思います。引きこもる人や登校拒否をする人は、逆に能力が高い人が多いと思います。自分の想いがすごい強いんじゃないかと思います。「こういうことしたいんだけどできない」「うまくいかない」というような。そこで壁にぶつかってもがくじゃないかと思います。

堀越吉太郎

その壁を乗り越えるきっかけ、インパクトを古典文学がくれると私は思っています。やっぱり百年たっても残っているもの、古典のもつ力はすごいんです。最近でいうと「君たちはどう生きるか」なんて、百年近く前の本ですよね。

出版業界を盛り上げる鍵

― 確かに今やベストセラーになっていますよね。

だから今後も、その本に限らず、手を変え品を変えいろんな古典というものが出てくると思います。日本の今の出版の状況ではいい本が作れません。いい本を作るというのは、ある程度の時間をかける、お金をかけるということが大事になってくるからです。

それがしにくくなっている以上、逆に古典というのをどういう形で出せるかが出版業界にとって鍵になっていくと思うし、そういうのを紹介していけたらいいなと思っています。

教養あっての実学

― 古典のもつパワーというのは具体的に何だと思われますか?

教養ですね。ようやく今いろいろなところで言われるようになりましたが、教養が現代ではものすごく必要になってきています。アメリカやヨーロッパでは、文学・歴史・哲学を語れるのがエリートでありリーダーとして当たり前のことですが、日本だとただ単に高学歴、いい大学を出ていることがエリート、みたいになっています。

高学歴そのものを否定するつもりはありませんが、日本の大学では教養についてはほとんど勉強しないんですよね。「法学部で法学の勉強しました」「経済学部で経済の勉強しました」という実学はあるんですけど。ただ、実学だけだとやっぱり厳しいです。教養あっての実学だからです。その大切さを伝えたいなと強く思います。今はどうしても実学全盛なので。

実学は教養だった

例えば、日本を代表する私立大学、K大学は実学を重視しています。しかしK大学の創設者が言っている実学とは、実は教養のことなんです。それが、西欧に追いつくための国の政策などもあり、実際に役立つ学問として実学が解釈されるようになっていったと思っています。明治以降に作られた日本の大学は私立国立問わず実学をするための学校として誕生しています。帝国大学は官僚養成学校ですし、この時代に私立の法律学校が多く誕生しています。江戸時代の寺子屋なんかではまず教養から入っていました。四書五経、特に論語などが基盤になっていました。

堀越吉太郎

そういった基盤の教養教育を受けた人たちが明治時代になって大学を作ったので、大学を作った人たちというのは実は教養があったんですよね。でも皮肉なことにその教養ある人たちが作った大学に入った方々は、そこが抜け落ちてしまっているのです。

― 時代が大きく変わっていく今だからこそ、教養というものがものすごく大切になってくるということですよね。

時代が変わっていっても変わらない価値です。

教養は自由な発想を生む基盤

― 教養は大切、というのはわかっても、それが何なのかを答えるのは難しくありませんか?

確かに具体的に答えるのはなかなか難しい。私は教養とは柔軟な発想をする基盤をつくるものだと思っています。教養というのは英語でいうと、リベラルアーツ。直訳すれば自由な芸術。何が自由な芸術なのかというと、自分の頭の中を自由にするのが教養なんですよね。哲学や文学が自由な発想をする上で必ず役に立つんです。アメリカやヨーロッパでは、大学で哲学や歴史を学んだ人を評価します。

特に今の時代はまったく新しい時代に変わっているので、今後AIがどんどん出てきて世界が大きく変わって行きます。その中で基盤となっていくのが教養です。そのことに気づいている人も日本には少ないし、気づいていても具体的に動ける人はもっと少ない。だからそこを、この書店での活動を通して伝えていきたい。

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古典は入門書から始めてみてほしい

― 私も本が好きなので古典には何度もチャレンジしましたが、言い回しとかが難しくて、すっと入ってこないんですよね・・・

わかります。だから入門書が大事だと思うんです。源氏物語の現代語訳だって比較的わかりやすいほうですけど、これでも読めない人がほとんどだと思います。ですので古典の紹介コーナーを、フォルケでも大きく設けています。たとえば源氏物語なら、世界的にものすごく高く評価されているんですけど、漫画版も出ています。漫画版から入ってみるのを勧めてみたりします。

― 漫画から入るのもありなんですね!

もちろんです。古典を読むための道しるべとして大事なのは入門書です。フォルケでは全部古典の入門書を置いています。それは漫画や解説書も含めてです。世界を知るためだったらキリスト教を知ることがすごく大事になってきます。アメリカやヨーロッパをはじめとして、世界の多くの国がキリスト教を基盤としているからです。キリスト教を理解するには、聖書を理解する必要があります。

堀越吉太郎

教養は必ず役に立つ

― 聖書には大切なことがたくさん書かれていると聞きます。

聖書の教えが、自己啓発書なんかにも今は活用されていますしね。あとは本を読んで得られる以上のものがあります。私はサリンジャーが大好きなんですけど、原語で読んでみたいなと思ったから英語の勉強をしました。だから英語がある程度できるようになって(英検準1級レベル)今すごく役に立っています。実学と呼ばれるものからスタートしたわけではないですが、それ以上の価値が今手に入っているのです。

役に立つものだけ学んでも、背景となる教養がなければ活かせないと思います。英語を勉強するのはもちろん大事なことなのですが、海外の人とコミュニケーションをとろうとするときに、聖書について知らなかったらちゃんと筋の通った話ができないし、政治にしろ経済にしろ、宗教が必ず関わってくるんです。だから本質的に理解するためには、そういうものへの理解を欠かすことはできないです。

― 教養をもっているという部分が、人に何かを教えられたり、コンサルティングをされている堀越さんの大きな強みであり厚みのように感じます。

そこが日本の色々な講座や教育というものに抜けてしまっているものだと思います。教養の部分です。直接仕事に役立つためじゃない学問、それがリベラルアーツです。

教養は世界のスタンダード

やっぱり日本と世界を比べた時に負けてしまっているのは教養の部分であり、これからその教養を身に着けていくことの必要性や重要性っていうものを伝えていきたいと思っています。そういったことを知ったり考えたりする場所はフォルケでもいいし、もちろん別の場所でも構わないのですが、江戸時代には日本も重視していた世界のスタンダードである教養の力、というものをいろいろなメディアを通してこれからも発信していきたいと思っています。

堀越吉太郎

【略歴】
堀越吉太郎(ほりこしきちたろう)
合同会社フォルケ(選書する書店フォルケ)CEO・店長

東京生まれ。大学時代は東京で新聞販売店で働きながら勉学に励む。尊敬する新聞販売店所長の影響により新聞販売店の経営者を目指す。1ヶ月に200件の無料のお試し読者を獲得し、平均で5%以上(新規の契約を10件以上獲得)の成約率をあげることに成功し、トップセールスになる。新聞社の関連会社の社員を経て、東京都内にて新聞販売店を経営。2011年、世界No.1スモールビジネスアドバイザーであるマイケル・E・ガーバーから直接指導を受け、アントレプレナーシップ(起業家精神)に目覚める。以来、認定ファシリテーターとして活動し、事業の「仕組み化」の世界的権威と言われるガーバーの教えを1人でも多くの日本の経営者に伝えることを使命とし、全国各地でコンサルティング、研修、講演会を開催している。独自の速読術で単行本を一冊20分で読破、年間300冊以上の書籍を読む生活を15年以上続けている。

主な著書に、ガーバーの教えの解説書としては世界初となる『起業したい人への16の質問――ガーバー流事業計画書のつくり方』(秀和システム)、『Dr.マイズナー流 口コミを生むためにやるべき16のこと』(秀和システム) 、『ガーバー流社長が会社にいなくても回る仕組み経営』(KADOKAWA/中経出版)などがある。

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