日本有数の転職エージェントが語る、転職でキャリアを構築するという選択肢

3万人超の転職希望者と接点をもち、2000人超の転職に携わり「日本一の転職エージェント」の異名をとる森本千賀子(もりもとちかこ)さん。全国のエグゼクティブから“困ったときのモリチ”と信頼される人材支援プロフェッショナルの森本さんから、企業と人、人と人を繋ぐ上で大切にされていること、ハッピーキャリアの極意、とことん聞き取らせていただきます。

森本千賀子

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原点は「人」に悩んでいた父の姿

大学卒業後、リクルートの子会社のリクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社をしました。私の父は私が小学生の頃に脱サラをして、いわゆる中小企業を経営していました。その中でも、特に人の採用や確保に苦労していたなと幼心に記憶に残っていて、中小企業を応援したいなという思いと、その中小企業を「人」にフォーカスして応援したいなという想いがありそういった就職先を選びました。

もう一つの理由としては、大学生の時にたまたま見つけた本が当時の終身雇用の日本と比較して、アメリカではすでに個人のvalue(価値)をあげていくのに、職場を変えながらバリューアップしていくということが書いてあって、その時に日本もいつかそういう日が来るんじゃないかと直感し、父の件とシンクロして、人材業界でやりたいというベクトルが定まりました。ただ、当時はまだ「転職エージェント」といった職業の会社が本当に少なかったですね。まだ日本は終身雇用で年功序列制度が当たり前でした。

たまたまリクルートの子会社にそういう人材紹介業をやっている会社があるということがわかり、あえてリクルートの本社ではなくて子会社のほうに入社を決めました。それは、人材分野の事業をやりたかったからです。

森本千賀子

キャリアの転機が次のステージを運んできた

― 今でも、ひとつの会社に長くいるのが美徳という雰囲気がありますよね。

今でも「嫁ブロック」といわれる風潮は残っていますね(笑)。当時は転職そのものがさらにネガティブな時代だったので、ほんとに親・兄弟、先輩から後輩まで関係するひとほぼ全員から反対されるようなことも少なくなかった。

私のリクルートでのビジネスキャリアの25年間はまさにそういった現場でやってきました。途中、組織マネジメントとして、多い時には100名近くのマネジメントという立場も経験しました。そんな中、第二子を出産していよいよ復職するタイミングで、なんと夫が異動になりミッションが変わり、いわゆる出張族になってしまいました。月曜から金曜まで基本的には夫が家にいないという生活に。

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― マネジメント職でそれは大変ですよね。

そうですね。長男の時は、結構夫に育児のサポートをしてもらってマネジメント業務をこなしていたのですが、そのサポートを得られなくなるという。かつ、私の出身が関西なので実の両親からも日常的にはサポートしてもらえない環境でしたので、どうしても有事の時には飛んでいかなきゃいけないマネジメント業務ではなく、時間の自己管理ができるコンサルタントという仕事をするのがいいのではないかと考えて、そういったワークスタイルのミッションを探しました。

そうしたら、リクルートの子会社のなかにそういう働き方を実践できる場所、リクルートエグゼクティブエージェンという、エグゼクティブ層のキャリアの支援をする場所がありました。そこへ自分から出向を志願しました。

25年目で独立

個人の方にキャリア支援するという仕事内容自体はすごくやりがいはありました。ただ、マネジメントで使っていた情熱の置き所がなく、自分の力を少し持て余してしまったこともありまして、その頃から、外向きの活動というんですかね、本を執筆したりメディアに連載したり、講演をしたり・・・ということを始めました。

気が付いたらNPOの理事にチャレンジさせていただく機会もあり、社外役員や顧問等々、そういった社外の仕事が増えていきました。あるお客様から「法人じゃないと付き合えない」と言われ、自分の会社を起業しました。それまでは個人事業主としてリクルートでの仕事と兼業してきてはいたのですが、法人としてスタートさせて、リクルートとのミッションを並走する新たなワークスタイルをスタートさせました。

まさに世の中も「働き方改革」の一環で「兼業・副業解禁」のムーブメントが起こり始めていて、メディア取材や講演などへの登壇依頼も増え、更に注目されていくのを感じていました。

ところが半年くらいの並走期間の中で株式会社morichの会社での仕事のウエートが増えてきました。また労務管理もより厳しくなる中で、働き方への制約がより強くなってきたのをひしひしと感じる機会が増えてきたため、株式会社morichの方にシフトすることを決めました。ということで、リクルートを卒業したのが昨年2017年の9月末。10月に独立をしています。

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オールラウンダーエージェント

― morich(モリチ)での主なお仕事はどんなことでしょうか?

もともとやっていた人材紹介業はそのまま継続。主に、第二子の育児休暇後2010年より直近でやってきた経営幹部層のキャリア支援をメインミッションにやらせてもらっています。
私が大事にしてきた資産があるとすると、お客様との御縁ですね。その中でも経営者とのリレーション(関係)構築に尽力してきました。これはなぜかというと、私の父と同じオーナー企業にお役に立ちたい、という強い想いを持っていたからです。

森本千賀子

オーナー経営者の中には創業者もいれば、二代目、三代目なかには六代目という方もいらっしゃいました。そういう方々に悩みを打ち明けていただくと、採用だけじゃなくて、いろんな課題がでてきて。HR系でいうと、新卒採用もあれば、人材教育、制度設計など。そういった元々やっていた中途採用での人材紹介以外のニーズや、場合によってはブランディングやマーケティングなど多様な課題のご相談に乗っていました。

それを私は自称「オールラウンダーエージェント」と呼んでいます。全方位型で自分がハブになってあらゆる課題をソリューションしていくという、そんな事業モデルを作れたらいいなということで、ビジネスマッチングや、働き方改革支援だったり、その一環で、生産性改革の研修や女性活躍推進がテーマのセミナーや講義などもやらせてもらっています。

「morich」社名の由来

― 社名は、やっぱり森本さんのお名前からきてるんですか?

リクルートキャリア在籍時代に森本千賀子で「モリモト」と「チカコ」の頭文字をとって「モリチ」と社内で呼ばれていたんですよ。たまたま森本っていう姓の社員が複数いたので、紛らわしいということで(笑)その自分がよく呼ばれる「morichi」と、「channel」という意味をかけて「morich」としました。

チャネルというのは、水路とか海峡という意味なんですが、昔 人類の活動が栄えた村や町には必ず河川があり、モノやヒトを運ぶために水路の利用は不可欠でした。モノが経由するルート、移動する道筋。「channel」にはそんな意味があり「morichモリチ」というチャネルを活用していただくとその先には必ず繁栄や成長がある。

morich(モリチ)により様々な関係がよりスムーズに流れていき、成長・繁栄していく力になりたい。そんな想いをこの社名には込めています。そういった想いをもとにして、人材紹介業を軸に、いろんな困ったな、を解決できる、「困ったときのモリチ」というのがブランドビジョンになっています。困った時に一番に思い出してもらえる。一番に相談に乗ってもらえる・・・そんな存在でありたいと思っています。

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私でなければ生まれなかったご縁をつくる

― お話の中で、オーナー企業としか付き合わないというのがありましたけど、なかなか難しいところがありませんか?

オーナー企業の経営者の方って、もちろん全員が全員そうじゃないですけど、自分の考えをはっきりお持ちになっている方が多いというか(笑)当然、ここまで自分が頑張ってきたという自負もありますし、リクルートの営業マンさえも担当したがらないというか、大手企業を担当していたほうがリピートも多くある一定数の求人ボリュームがある分、安定的に業績をあげられると考える人が多いのも事実です。

例えば一社で年間数百人の採用と言われたほうが我々の仕事からすると、生産性は高くなります。ブランド力もあるし、比較的安定して実績を出すこともできるのですが、私は、私が関わらなければ生まれなかったご縁みたいなものにやっぱりすごくやりがいを感じるのです。

本当に「私」が必要とされている場所でやりたいなというのが、私が突き動かされる源泉というか。それでいうと、理屈でビジネスがある程度成立する大手企業のお客様は私じゃなくてもほかのメンバーでも十分やれるし、やりたがる。むしろうちの父も含めて思いついたことはすぐさま行動というような朝令暮改も当たり前、むしろ良しとするオーナーのこだわり含めて(笑)なかなか商売としては大変なところに私はあえて突き詰めたかったんですね。

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困ったときのmorich

― そういう人たちと繋がっていくことのハードルはすごくあったと思うのですが、それをどういう風に生かしていったのでしょうか?

やっぱりそういう方々って一回信頼関係作っちゃうと、ロジックというか論理的根拠みたいなものがなくても、「morichだから全部任せるよ」となるんですよね。
それが私の中では信頼をしていただいたひとつの証でもあり、かつそうなると業務上のプロセスでいう前工程の信頼関係を構築するまでの部分が短縮される感覚です。業務の成果を出しながら積み上げていくという信頼関係構築プロセスが必要なくなるから、とても効率よく仕事ができていくので、実はすごく面白いです。

森本千賀子

人と出逢うことが天職

― お話聞いているとすごくパワフルな方だなと感じますね。

「家でもそうなんですか?」とよく聞かれるのですが、基本変わらないです。どこに行っても、うちであろうと会社であろうと、友達といても家族といても一人でも、基本このスタイルは変わらないです。「疲れないの?」とも聞かれますけど、素なので、疲れようがないというか。気が付いたら一日10人以上の人と会っていますね。毎日・・・(笑)私の場合ずっと家にいて一人で誰にも会わないことのほうが違和感感じます。

― じゃあやっぱりそういう人材業というか人と関わるお仕事っていうのが、森本さんの天職なんでしょうね。

はい。それはそう思います、ほんとうに。

― 一番お仕事のメインとなっている部分というのはやはり・・・

間違いなく人材紹介業ですね。間違いなく私のコアとなる経験値ですので。

― 日本一のエージェントですもんね。

日本一かどうかはわかんないですけど、確かに現場で積み上げてきた時間は長いんじゃないでしょうか?結果として紡いできたご縁の数も恐らく、驚かれる件数だと思いす。

目の前の壁には必ず意味がある

― 人間性のベースは確かに基本変わらないとは思うのですが、なかなか思うように行かないという人もいるかと思います。そういう方たちへのアドバイスあればお願いします。

例えば、よく成長の源泉ともいわれる、「試練・逆境」などの修羅場は、それは誰にも訪れる可能性のあるものだと思っています。じゃあ、どういうときかというと、何らかのチャレンジをしたときに訪れると思うのですね。自分の経験値と比べて頭一個上のものにチャレンジしたとき、新しい何かにチャレンジした時に、最初はうまくできなくて、失敗なんかもして、結果として試練や修羅場になっている。そのときの捉え方というか向き合い方というのが大事だなと思っています。

どんな試練や修羅場にも必ずそこには意味があって、学びがあると私は思います。この試練から学ぶべきことは何か?どんな学びが隠れているのか?というのをいつも考えるようにしています。

よく言われるように、神様は乗り越えられない壁は作らないし、それを越えた先に、自分の成長や自分の得難い価値が必ずそこにあるからこそ、試練が訪れるんだって私はいつも思っています。ですので、そういう試練が目の前に来た時にはいつも成長させてもらえる機会だと思って、「ありがとう」と感謝しています。そこから私は何を学べばいいのか、集中して考えますね。

捉え方ひとつで世界は変わる

― すごい、達観していますね。

もちろん起きた瞬間は、え、なんで私・・・と思いますよ。でもきっと何かここから学ぶべきものがあるんだろうなと思って、それは何なのか考えます。
本当に捉え方だと思っていて、落ち込んでいようとも、前向きに向き合おうとも、その事態そのものは変わらないので、起きてしまった以上 その起きてしまったことを落胆していても何も変わらない。だから起きたことについては、ポジティブに、どうやって乗り切るかというところにエネルギーを集中するようにしています。

森本千賀子

体験を語るからこそ伝わること

― 著書の「のぼりつめる男、課長どまりの男」読ませていただきました。今のお話の通りで、一つ一つの向き合い方が大事なんだなと感じました。

読んでいただいてありがとうございます。あるあるじゃないですけど、書かせていただいたのは私が妄想や想像をして書いているわけじゃなくて、実際に私が体験をしてきたことでもあり、お話を伺ってきたエグゼクティブやプロフェッショナルな方々の共通点だったりします。

エグゼクティブの方の中でも、非常に「人たらし」力があふれていて、常に周囲にたくさんの人が集まってくるという方もいらっしゃれば、どちらかというと孤独なタイプの方もいるわけで。その差はなんなんだろう?と、常に仕事の延長戦で向き合うことができたので、書かせていただきました。
みなさん読まれると、心あたりがあるというか、そうそうって共感いただく方が多くいらっしゃるので、ある意味、再現できるノウハウとしてまとめさせていただいてよかったです。

その人の大切にしていることを大切にする

― 企業が求めている人材ってオーナー企業だとハードルも高いと思いますが、その中でマッチングさせる秘訣とは?

オーナー企業だと特に、その経営者との相性がすべてだと思っているので、そのオーナー経営者の価値観とか、判断軸を理解したうえで提案するようにしています。

自分が必要とされる場を求める=転職

― 転職をしたい、キャリアアップをしたいという潜在的なニーズはやっぱり多いですか?

みなさんの周りでも最近では、「転職します」「転職しました」といった連絡を珍しくもなく普通に聞くようになったと思うのですが、それくらい当たり前の選択肢になってきていますね。

人材紹介事業者数も、2017年に2万社を超えました。私が25年前にやろうと思った時にはおそらく数百社程度しかなかったと思います。そういう意味でいうと、非常にニーズが高まっている市場だと言えると思います。

― 僕らからすると、超一流企業から転職をするという感覚があんまりわかんないんですよ。なんでそんなすごい会社にいるのに、転職しちゃうんだろう?って。

おっしゃる通りの疑問だと思います。さっき私のやりがいのところでお話したのですが、人って必要とされている実感というのがものすごく必要なんですよ。比較的安定した環境だと、やっぱり危機感を覚えるんですよね。楽なんですけど、自分はこのままでいいのかとか、成長が止まっているのではないかとか。上司を見ていて、自分の数年先にはそうなりたいのかと・・・。結構、よりハードな環境でやりたいという人も多いですよ。

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一人でも多くの人のベストな環境を見つける

― それだけの熱意を持ってらっしゃる方をナビゲートするって、その方の人生を左右するということですから、すごいことですよね。それを2000人って…もう一回言いますけど、すごいですよね(笑)

結果としての2000人ですから。基本的には一人一人に強い想いをもって対峙させてもらってきました。一つ一つのドラマというかストーリーに寄り添いながら伴走させていただいたつもりです。
ですから〇〇〇人目標というように数字の為にやってきたのではありません。
私のミッションは、できる限り一人でも多くの方に、生きていくために自分にとって最適な場所を見つけていただくことが、使命だと思ってやってきました。ですので、それを推しはかる指標KPIという意味で、できるだけたくさんという結果はこだわりのひとつではあります。

相談を受けることそのものが、ご縁

― それだけの実績を作るには、色々な企業とのお付き合いがないと難しいと思うのですが、信頼を集めるコツは何ですか?

やっぱり「困ったときのモリチ」、これじゃないでしょうかね。今やっている転職エージェント業も、商売や仕事という風に思ったことは本当に一度もなくて。すべてライフワークであり、そして出会いもご縁も必然だと思っています。例えばその人が困った時にご縁が紡がれ、私に期待をしていただいたからには、誠意をもって期待を超えるよう最善を尽くすというスタンスをずっととってきました。

人とのご縁というのは、私が必要とされるからこそ繋がったのだと。困ったときにぱっと思い出していただける、そういう存在になりたいなと思いながら、一社一社、おひとりおひとりに向き合っています。

幸せの赤いモリチ

― 今後の展開について教えてください。

私のもう一つのビジョンとして「幸せの赤いモリチ」というのがコンセプトでもあるんです。
男女が赤い糸で結ばれるということと似たような意味で、今までは「企業と人」だったのですが、それが「企業と企業」のビジネスマッチングだったり、「人と人」男女の婚活支援だったりをやっていて。いかに一人でも多くのハッピーキャリアを増やせるかという。

― ハッピーキャリア、いいですね。

いいでしょう、商標登録しようかと思って(笑)キャリアというのは職業や仕事だけではなくて、人生そのものが私の中でのキャリアと定義しています。そういうハッピーキャリアを一人でも一件でも多く作ってhappyの連鎖が広がれば嬉しいです。そんな世界観の実現が私がまさにこの仕事をしてきた意味であり、目指すべきGoalです。

森本千賀子

森本 千賀子(もりもと ちかこ)
株式会社morich 代表取締役社長

人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手がける人材支援のプロフェッショナル。1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒業後、株式会社リクルート人材センター(現・リクルートキャリア)入社。入社1年目にして社内MVPを受賞以降、MVP常連のトップ営業ウーマンとしてリクルート社外にもその名を轟かせ、2012年にはNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」に取り上げられる。その後、株式会社リクルートエグゼクティブエージェントにて、経営幹部や管理職の採用支援・キャリア支援に従事。約1000名を超える企業経営者とのよき相談役として公私を通じリレーションを深める。

2017年3月株式会社morichを設立、兼業を行う中で、同年10月に25年間在籍していたリクルートを退職しオールラウンダーエージェントとして活躍の場を拡げTV、雑誌等メディア出演多数。全国の経営者や人事など講演・セミナーに日々登壇。著書に『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』(日本実業出版社)、『後悔しない社会人1年目の働き方』(西東社)などがある。

株式会社 morich

森本千賀子氏著書一覧