「混ざる」ことで表現する世界。現代アーティストMADARA MANJI

明治時代に一度廃れてしまった「杢目金(もくめがね)」という金属加工技術を駆使し、注目を集める現代アーティスト、 MADARA MANJI(マダラ マンジ)氏。その独特の思考プロセスと作品に込められたメッセージについて、とことん聞き取らせていただきました。

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All Photo:AKIKO BUSCEMI 
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途絶えた技法を現代アートへ転換

― とても魅力的で妖艶な雰囲気を感じる模様と佇まいの作品なのですが、杢目金(もくめがね)というのはどういったものなのですか?

杢目金(もくめがね)とは、江戸時代に秋田の金属工芸家の方が生み出した、刀の”鍔(つば)”や小柄(こづか)を作るための金属加工技法だったんです。

その技法は再現不可能のレアテクニックと言われていて、ほとんどその技法を知る人がいなかったところに加え、明治維新後の廃刀令などもあって、杢目金の技術は廃れてしまったんです。もちろん世界で知る人もいませんでした。

そんなある日、偶然の出会いからその技法を知ることになり、自分が考えているコンセプトに融合できる表現だと感じたんです。そこから現存するわずかな資料を頼りに、独学で杢目金の技術を習得し現代アートへと転換させることができました。

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再現までの苦労と葛藤

僕は18歳の頃に杢目金(もくめがね)に出会い、魅了され、色々と調べる中で、杢目金は金属工芸の技術の中でも、基礎をしっかりと習得し、応用し昇華させていくことで身に着けることができる、非常に高度な技法だということが分かったんです。

それでも自分の内なるコンセプトを表現できるその技法を何とかモノにしたく、独学で取り組んでいきました。

一度閉ざされてしまった特殊な技法ですので、関連情報や加工の仕方もわかりません。当然思うようなものを作れるわけもなく、試行錯誤の中で、ただただ時間だけが過ぎていったんです。

とにかく作品を作るために「できるまでやる!」という信念と、素人だからこそ型にはまることのない発想やアイデアをいくつも試し、技術を高めながら作品へとクリエイティブさせていくことができました。
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簡単に混ざり合うことへの違和感

- 杢目金(もくめがね)に出会ったきっかけは?

少し子供の頃の話しに戻るんですが、小さなころ、何かを混ぜて物を作ることってあると思うんですね。例えば粘土とか。でも、そういう混ぜやすいものを混ぜるという感覚に興味を惹かれなかったということが影響していると思うんです。

- 混ぜやすいものを混ぜることに興味を惹かれないとは?

今だから言語化できるのですが、人の中にはいろいろ複雑で矛盾する感情があって、そういったものが多様に混ざり合っていると思うんですね。

それが僕の考える”混ざる”という状態であって、だからこそ簡単に混ざり合うことへの違和感みたいなものを抱いていたと思うんです。

そういう思考が根底にあって、いざアウトプットする段階で、それであれば混ざりにくい物を混ぜ合わせてみよう、ということで色々調べていく過程で、杢目金(もくめがね)という技法に出会ったのです。

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物質の限界性をつきつめていく

- 杢目金(もくめがね)の材料はどんなものを使うのですか?

金・銀・銅を主として、非鉄金属(鉄以外の金属の総称)を使っています。ここで面白いのが、通常異なる金属を溶かして混ぜようとすると、一瞬で混ざり合い、一色の合金となってしまうんですね。

杢目金の技法も同じで、金・銀・銅を普通に溶かして混ぜようとすれば、ただの一色の合金になってしまう。しかし、当然ながら溶かさなかければ金属同士が混ざり合うことはないんです。

だから、物質の限界性というか、金属が溶けるか溶けないかギリギリの温度を維持しながら、叩き込むことで混ぜ合わせていく。

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ほんの少しでも、温度や叩き方を間違てしまえば、溶けて合金化してしまったり、そもそも割れてしまったりということが起きる。本当にギリギリというか絶妙というか、そういう状態を用いる技法なのですが、その工程が僕にとてもマッチしていたと思うんですね。

混ぜると簡単にいっても、素材を混ぜるときには、3キロもの金づちで何度も何度も叩き込むので、とんでもなく肉体を酷使するんです。なので、作業靴はすぐにボロボロになってしまいますし、筋骨隆々になりましたね。

マダラ模様と矛盾から生まれる美

- アーティスト名の由来はあるのですか?

マンジという呼び名は、本名からもじられて呼ばれていたのですが、マダラというのは、僕の作品にマダラ模様を用いることから、20歳のころに、表現を志す同年代の人たちから付けられたのがきっかけですね。その頃からMADARA MANJI(マダラ マンジ)というアーティストネームを使うようになりました。

- 作品には様々なマダラ模様があるのですが、マダラ模様が生まれた背景を教えてください。

僕は子供のころ学校にほとんど行かなかったんです。不登校というやつですね。実は、幼稚園児の頃から、集団という機能に馴染めない自分を感じていたんです。

例えば、学校のルールは守らなければならないということ。学校の先生などは、当たり前のように「ルールは守るもの。守らないことは悪いこと。」と一方的に押し付けてくる。

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もちろん、理屈として理解はできるのですが、同時に「守りたくない」といった矛盾する感情や思いが自分の中であふれる。物心が付くにしたがって、そういうことに違和感を覚える自分がいたんです。

そして、「人が勝手に作ったルールのくせに、それを完全に守らないことは、本当に悪いことなのか、そこに人間らしさがあるのではないか、整然とされていない矛盾があるからこそ感じられる美しさもあるのではないか…。」そんなことを考えるようになっていました。

僕と野生動物の違いから知った世界

- 幼少期のころに感じていた理不尽さや矛盾が作品を通して表現されている?

僕は子供の頃テレビで放送される、野生動物の生態系に関する番組が好きだったんですね。なぜかというと、人間の都合や理屈で作り上げられた、社会のルールがよくわからなかったから。

それに対して野生動物は本能で生きている。集約してしまえば、すべては生きるためのルールというか本能であって、それらはわかりやすく、純粋に受け入れることができたんです。

もちろん僕も、お腹がすいたらご飯を食べるし、眠くなったら眠るということは当たり前のようにやっている事なので、子供心にも理解しやすかったというのもあると思います。

ただ、そういう番組を見て、動物と自分との間で如実に違うものがあるということを感じたのです。

それは、圧倒的な想像力。

僕はそれに気づいたとき、人として持ち合わせた、動物にはない感性や想像力に強く興味をひかれたんです。

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感性と想像力から導かれた未来

感性や想像力というものを自分なりにひも解いていくと、自分の内面にある複雑な感情論や思考の形成であったり、そういったものが、どのように社会にフィードバックされていくのかというプロセスが、表現することに対して興味を持ったきっかけでした。

当時の僕はほとんど学校に行っていなかったのと、まだ小さかったということもあり、外の世界とつながることが圧倒的に少なかったんですね。

だから、美術やアートという世界が全くわからなかった。もちろん、アートを表現できる場があるということも知らないし、それが仕事になるなんてこともわかりませんでした。

それでも、自分の中に湧き出てくる感情や思考を、文章にしたりすることで、自分なりにアウトプットをしていました。

そんな何とも言えない鬱積した日々を過ごしていたのですが、10代半ばころからバックパッカーとして他者とのつながりを増やすようになったんです。

その時にアートという手法を用いることで、自分の内なるものをアウトプットする世界があることを知り、それに対して自分の適性が高いかもしれないと可能性を感じたんです。感性、想像力、アウトプットする場がつながったその時、初めてアーティストになろうと思いました。

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マダラとフォルム

- 模様や色も多様ですが、それぞれ込められたメッセージがあるのですか?

模様や色は金属の種類や含有量などを工夫して調合し、色と模様の個体差を持たせています。

例えば雲を見てゴジラに見えるとか犬に見える、ということってあると思うのですが、僕はそういう不定形な模様を見たとき、内面の心情をビジョンとして知覚することに長けていると思うんです。

作品のマダラ模様は自在に操ることが可能なので、まずは下絵を描いて制作するのですが、作品を作りながらインスピレーションが湧き出てくるので、そういうバランスを融合させて作品を作っています。

作品を作り始めた当初から、マダラ(混ざりあっている)模様は念頭にあったのですが、フォルムに関しては、まっすぐ立っていることにピンとこなかった。

人間の中にあるアンバランスさ、見る角度や条件によって様子が違って見える感じを作品に反映させていきたいと思った結果、自然とピーキーな(扱いづらい)ものとして表現されていきました。

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作品に宿るパワー

技術的進歩や社会のルールの構成のされ方も、時代に合わせてこれからもどんどん変化されてくと思うんです。ただ同時に人の価値ってどこにあるんだろうと考えたとき、僕は人の想像力や内面に宿る力ってとても大事だと思うんです。

極端に言えば、人類史はそれらによって更新されてきた。それは、想像力や内側に宿るパワーがあるがゆえに、自ら不可能性を想像することができるのではないかと…。

- 不可能性を想像するとは?

不可能性とは、例えば「空なんて飛べるわけがない」といった、出来るはずがないという先入観なんですが、それと同時に人は「もしかしたら空を飛べるかも知れない」と想像することによって可能性も見出します。そして飛行機を作るという形でその想像力を具現化してきたと思うんですね。さらには宇宙にも行けるようなった。

そういった種類の違う力が内側に宿っていて、それの「衝突」と「拮抗」と「突破」によって生まれる様々な感情や出来事が、現在まで人類史を作ってきたと思っているんです。

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不可能性も可能性も自分自身の想像力が作り上げるもので、人間らしさってここにある。だから、そういうものを結晶化していくことが、僕の作品の根本にあるメッセージとして受け取ってもらえると嬉しいです。

混ざり合うことによってコンセプトが成熟していく

- 作家として見出されてる前と後で変化はありましたか?

ほんの数年前までは、本当にニートのような生活をしていたんですね。学歴もなく社会に馴染もうとも思っていなかったので、本当に世間のはみ出し者みたいな…

だからもちろん、作品を作りたいという思いはあってもお金がない。特に杢目金(もくめがね)は、金・銀・銅といった金属を用いるので、非常に材料費がかかります。なので思うような作家活動はできていなかった。

そんなもどかしい時間を過ごしていた時に、ホワイトストーンギャラリーの方に声をかけていただいたことで、可能性の扉が開かれていきました。

端的に言ってしまえば、今まで作ることのできなかったサイズの作品にチャレンジできるようになりましたし、今まで届けることができなかった人たちに向けて、展覧会などを通して見てもらうことができるようになった。

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もちろんそれによって僕や作品に興味を持ってくれる人が増え、現実的な話しとして購入もしていただける。その購入していただいたお金を全部つぎ込むことで、さらに自分がイメージする作品を作ることができる。

ただ、本当にすごいと感じている事は、実は、僕を知ってもらったり、他者と混ざり合うことによって、より自分の中のコンセプトが成熟していくことなんです。そこからさらに新しいマダラ模様や渦が生まれていく。

「混ざり合うというのはこういうことか。」というのが、ステージが変わったことで強く感じていることです。それらも含めて、すべてが様変わりしたと思いますね。

満足するような好奇心はいらない

僕は自分の事を極端にストイックな性格だと思っていて、「夢を追うためなら何でもやる」といつも考えています。想像力って限界がないので、もっと、もっと、もっと、もっと、いろんなことに挑戦して、このままトップシーンまで駆け上がり、その向こう側まで行ってみたいんです。

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僕はとにかくお金が沢山入ったからといって、贅沢したいとは思わないんですね。例えば1億円入ってきたとして、5千万円を制作費に充てて5千万円でいい暮らしをするとしたら、結局その想像力は5千万円で体現できる程度だと思うんですね。それはつまらない。

NASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙に行くために使うお金って、莫大なわけですよね。なぜそんな莫大なお金を使ってでも宇宙に行くのかと言ったら、それだけのお金を使ってでも追及したい、未知への強い好奇心があるからだと思うんですね。

でも、5千万円程度で満足するような好奇心であれば、そんなものは世の中にいくらでも溢れかえっていると思うんです。それは僕が到達したい場所じゃない。

- 想いを形にするために必要なことって何でしょうか?

表現の世界って仕事としてやっていくのは難しいという現実があると思うんですね。だからと言って、苦労しなければならないかと言ったらそんなことはない。ただ、プロを目指すのであれば、苦労を苦労と思わない。

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本気であれば苦労にすら気づかない

僕は今、アトリエに住み込んでいて、毎日足を伸ばすこともできないボロボロのソファーで寝ています。シャワーもないので真冬でも屋上で水浴びをするんです。さすがに真冬の時期は水の冷たさに笑ってしまいますが、別にそれが苦痛だとは思わない。そんなことよりも、もっと作品を作ることに没頭したい。

外から見たら大変そうに見えるのかもしれない。でも、そんなことは本当にどうでもよくて、本気で打ち込んでいれば、苦労だとか苦労じゃないとか、そんなことにすら本人は気づかないと思うんですよね。

自分と背中を押してくれる人たちを大切にする

アートの形は色々あると思うのですが、それをやる理由を模索して実行するのが幸せなはずで、それを何のためにやるのかによってスタイルを見つければよいと思うんですね。

あきらめるとか、そんなことすら考える暇もないくらい「絶対にやるんだ」という強い意志と、もうひとつは、その中で出会った人たちを大事にするということは、想像を具現化するためには必要だと思うんです。

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絶対にやりたいことを前に推し進めていくには、絶対にやりたいという奴の背中を押してくれる人たちの力が必要だと思っていて、だからこそ、そこにきちんと応えていくことが大事だと思っています。

僕は色々な方たちのおかげで今があるし、これからも多くの人たちと出会って混ざり合っていくことで、大きな力が生まれていくと信じています。

- 混ざり合うって面白いですね!

僕は初めは、自分の中にある感情や思考とかが混ざり合うことに興味があったんですけど、結局他者と混ざり合うことで世界はできているし、そういうことって、実はとても素敵な力なんじゃないかと思うようになって、それをまた作品に反映することで、もっと大きな想像を具現化していけると感じています。

今後の展開や展望

今後は国内、国外に関係なく個展を開いていきたいというのは、現実的な予定なのですが、非常にざっくりした展望をお話しすると、僕は人間の想像力ですごいと思うのが、今までなかったものを作れるということで、だったら僕も今まで人類史になかったものを作りたい。

無限の想像力と可能性。そういう力の結晶みたいなものをアーティストとして表現していきたい。それを目指して活動を重ねていくのが目的というか夢ですね。

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MADARA MANJI 個展 【MASS】

会場:WHITESTONE GINZA NEW GALLERY
地図:https://www.whitestone-gallery.com/
会期:2020/12/18(金) ~ 2021/01/23(土)
営業時間:11:00 – 19:00
定休日:日曜、月曜
※年末年始休業日
2020/12/27(日) – 2021/01/06(水)

【作家略歴】
MADARA MANJI

金属彫刻作家
京都の職人に弟子入りし金属加工の
基礎技術を学び、数年間の修行の後に独立。
独学で杢目金の技術を習得し、
その技術を用いた立体作品の制作を行う。

個展
2020 MASS / Whitestone Ginza New Gallery
2020 ACCUMULATION / Whitestone Gallery Taipei
2020 VORTEX / KARUIZAWA NEW ART MUSEUM
2017 Antagonism and Transcendence / KARUIZAWA NEW ART MUSEUM
グループ展
2020 荒れ地のアレロパシー / 三越コンテンポラリーギャラリー
2019 Neo-Materialism / Whitestone Ginza New Gallery
2018 HEBIME MADARA MANJI 二人展 ARCHETYPE / KARUIZAWA NEW ART MUSEUM
2017 INTERMIXTURE / Whitestone Gallery HongKong Hollywood Road
2011 ・年代展 / Factory Kyoto
アートフェア
2020 art TNZ / YOD Gallery
2020 AFT Art Hunting / YOD Gallery
2019 KUNST RAI 2019 / YOD Gallery
2018 VOLTA 14 / YOD Gallery
2017 ART FAIR ASIA FUKUOKA 2017/ Whitestone Gallery KARUIZAWA
2017 ART NAGOYA / Whitestone Gallery KARUIZAWA
2012 ULTRA 005 / Factory Kyoto
他多数

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