マツコの知らない世界にも出演!営業に性格は関係ない。サイレント・セールスの極意とは?

マツコの知らない世界にも出演!営業に性格は関係ない。サイレント・セールスの極意とは?

小さいころから極度の人見知りで、小中高校生時代もクラスで一番無口な性格だったにもかかわらず、リクルート入社後、わずか10か月で営業達成率全国トップになり、現在は口下手に悩む営業マンのための講演やセミナーで活躍する渡瀬謙(わたせけん)さんから、「サイレントセールス」の極意と、「マツコの知らない世界」に出演された際の裏話も、とことん聞き取らせていただきました!

渡瀬謙

静かな営業

企業や団体に呼ばれて、地方に行って講演をします。主に営業の話ですが、「あまりしゃべるのはやめて、静かに営業しましょう」というスタンスの講演になりますね。もともと内気だったり、内向型の人を対象としてやってるので、口下手で売れずに悩んでる人がメインターゲットです。

営業は、しゃべりが上手か下手かは関係ない

そういう人は意外と多くて、売ろうと思ってしゃべる練習をするんですけど、それでも売れないから、まだ練習が足りないのだろうと、グルグルそれの堂々巡りになって悩んじゃうんですね。「しゃべれないから、あがっちゃうから、気が小さいから売れない」と思いがちな人が多いのですが、売れる・売れないのポイントは、しゃべりが上手か下手かは関係ないんです。「練習なんかしないで、その代わりに別のことをやりなさい」。そういう内容の話です。

営業だからしゃべらなきゃいけないんだという強迫観念があって、ちょっと沈黙があると、営業側から話さなきゃと思いがちなんですけど、お客さんのほうからしゃべってもらうことを心掛けろというのがメインの話になります。前段の雑談、ヒアリングや商品説明にしても、お客さんにたくさんしゃべってもらうようにしなさいと話します。こっちはもう問いかけるだけでいいから、向こうがしゃべってくれて、またこちらから質問して向こうがしゃべるの繰り返しがいいんだよと。

静かな講演会

― しゃべるのが苦手な人が集まる講演会だと、会場も静かそうですね。場を盛り上げるのは大変でしょう。

確かに静かですけど、それは想定内です。それに盛り上げたりしませんよ(笑)。そもそも盛り上がるのが苦手の人の集まりみたいなものですから。声を出さないで、うなずくくらいでいいんですよと言うと、みなさんホッとするみたいです。

渡瀬謙

― リクルートで営業達成率全国トップの結果を出してきたわけですが、それも静かな営業だったんですか?

リクルートでは中途採用の求人広告をやってました。今は全部ネットのリクナビになってますけど当時は雑誌で。B-ingや、とらばーゆなどの広告を企業に売るんです。セミナーでよく話すんですが、入ってすぐに売れまくったわけじゃなくて、半年はダメでしたね。売れない頃はムリしてしゃべってたんです。明るく振る舞おうとしてました。でも売れなかった。売れ始めたのはそんなことはやめて、素のままで、しゃべりは苦手なんですって入り方をしてからです。

集団活動も会社勤めも苦手なトップセールスマン

そもそも集団というものが苦手で、リクルートでトップになったときでも、集団活動はダメでしたね。当然、会社勤め自体も苦手なんです。こういう性格だったんですけど、リクルートのメンバーはとにかくしゃべるし、明るいし、むしろ騒がしいくらいの人たちばかりだったんです。ですから浮くんです。それで、居づらい。居づらいんだけれど、自分は営業で成績を上げるために入ってきたんだと思って、それは頑張りました。成果を出せれば、この居づらさはなくなるという思いでやってました。

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ところが、いざトップになってみても、あまりラクな気持ちにならない。それはなぜだろうと初めて自分を振り返ったときに、自分は周りに人がたくさんいる環境がストレスになるんだと気がついたんです。過去を思い出すと、運動部なんかに入ってもすぐに辞めちゃって、自分は根性がないんだとレッテルを貼ってたんです。でも根性がなくて長続きしなかったわけじゃなくて、性格が環境に合わないだけでした。

仲良くしなくても認められる道

そこで世の中には自分と同じような人はたくさんいて、会社の中でなんとかしてコミュニケーションをとろうともがいて、でも道が見つからない人が多いんだろうなと思ったんです。だから辞めてしまえって論法にはなりませんが、辞める選択肢の反対に、仲良くしなくても成果を出して認められる存在になるという道もあります。リクルートでそう気がついて、転職ではなくて独立を選びました。他の会社に入ってもまた同じことの繰り返しになるので、ひとりでする仕事を探しました。

渡瀬謙

「サイレント・セールス」を教えるようになるまで

独立して最初はコピーライターをやりました。リクルートは雑誌を扱ってたので、外部のフリーライターとかデザイナーがたくさんいて、彼らと話をしながら、自分はどれが一番向いてるのか考えてました。その中で、コストもかからないライターの仕事がいいなと思って。ライターはフリーでやってたんですが、紹介してもらったりでけっこう仕事が増えていきました。おまけにコピーだけじゃなくて、デザインも印刷もやってくれと頼まれて、あれもこれも受けているうちに、もうひとりじゃできない状態になりました。それでメンバーを入れて、最終的には10人くらいの所帯のデザイン会社になったわけです。

それはそれで傍目から見ればすごいことかもしれませんですけど、当人にしてみれば、ひとりでやるつもりが常に周りに人がいる状態になって、違和感がつきまとってましたね。こうじゃなかったはずなのにって思いで、転換したいなと思い始めてもいました。

転換したかった理由はもうひとつ、下請けですから、どこかでデザインの仕事が発生して初めてこっちの仕事になるんです。月刊誌の制作もやってたんですけれど、相手の都合でこれもプツンプツンと切れちゃうんです。そうなるとこっちのビジネスにも支障が出るし、給料も払わないといけないし、このまま続けるのもつらいなと思ったんです。

それで別の何かをやろうと考えました。自分はリクルートで営業の経験があるし、フリーランスの営業の仕方が厳しいのも知っている。それをミックスして、フリーランスのための営業を教える仕事をスタートさせました。フリーの人は良い技術を持っているのに営業ができないことが多い。それはもったいないなあと常々思っていましたから。それにフリーの人って明るい雰囲気じゃなくて、職人気質の人やおとなしい人が多くて、だんだんターゲットが性格的な部分に絞られてきました。

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サイレント・セールスの3原則

― サイレントセールスのレクチャーをするときに、手順みたいなものはあるんですか?

基本の3要素があるんです。

「営業として自分がしゃべらない」
「相手にしゃべってもらう」
「モノや図表で見せる」

これが3原則でムダなことはしゃべらない。何がムダかムダじゃないかわからない人が多いんで、それは後々レクチャーするんです。

警戒心を解くには、相手にしゃべってもらう

― 相手にしゃべらせるのも難しいと思うんですが、そのコツってなんでしょう?

最初のうち、お客さまは営業マンに対して警戒して慎重で、心に壁を作っていて、そんな状態ではどんなにうまいセールストークをぶつけても通用しません。ではまずどうするかというと、心の壁を下げなくてはいけないし、警戒心を解かなくちゃいけない。

渡瀬謙

そのためには、営業マンがペラペラしゃべるより、相手にいかにしゃべってもらうかがポイントなんです。警戒してればしゃべってくれないのは当たり前ですけど、うまい問いかけをすれば答えてくれて、しゃべってくれるようになるんです。そして心を開いてくれて、仕事の話もしやすくなる。初対面の人には、問いかけてそれに答えてもらうパターンしかないですね。

うまく問いかける

では、どんな問いかけがいいのか。
相手の頭の中はわからないし、知らないことを尋ねても答えてくれようがない。興味のないことも答えは返ってきませんよね。営業マンの失敗にありがちなのが、「湯河原をご存知ですか?」「今日は湯河原から来たんですが、あそこはサルがいたりイノシシが出たりで、けっこう田舎の温泉街なんですよ」など、自分の話をしちゃうんです。

運よく相手がそれに興味があればいいですけど、なかなかそうはなりません。自分のことを話すんじゃなくて、相手を主体にした話題にしないとダメなんです。例えば、もらった名刺を見ながら、「こう読むんですか?」「珍しいお名前ですね」というところから始めるんです。そうすれば相手もムリなく自然な口調で話し始めるものです。

冷静に観察する準備

挨拶する相手を冷静に観察できるように心の準備をするんです。初対面で緊張すると、観察力がなくなってしまいます。相手の言葉もろくに耳に入らない。いかにリラックスして相手を見て、うまい質問ができるかです。相手の会社に伺う場合、その会社の近隣を観察してみたり、少し早めに行って裏に回ってみたりして、ちょっとおいしそうなケーキ屋さんでもあれば、それを話題にしてみることです。

「お世話になります」は禁句

― ちょうど1年前に出された本、『トップセールスが絶対言わない営業の言葉』は1万部以上売れたそうですが、読んでもらいたいポイントはありますか。
「お世話になります」なんて言う人が多いんですが、これはダメなんです。まだお世話にはなってないし、その言葉だけで相手からこれは営業くさいぞって警戒されちゃうし、何か言う前から断ろうと思われます。ですから、これは断らせてしまうワードで禁句です。

営業マンはどうしてもこれを言っちゃうんです。もう営業の挨拶言葉になってて、「こんにちは」みたいなものですよね。だから営業マンは違和感なしに使ってるし、使わないと気持ち悪い。でもこれを使うことによって、私はあなたに営業しますよと宣言してるのと同じで、そこでもうシャットアウトされてしまう。とにかく最初からそんな挨拶をしてはいけません。

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まだある、NGワード

また「お忙しいところをすみません」もダメですね。初対面の相手が忙しいかどうかなんて知らないじゃないですか。これも同じく禁句です。営業ってよくよく見てると、無意識にやっていることや当たり前のようにやってることの中には、余計なこと、まずいことが多々あります。そういったことをこの本には書き連ねています。自分ではこれでいいんだと思っていても、失敗する要素があったりします。気がつかないと一生そのままです。

「マツコの知らない世界」に出演

― ところで余談になってしまうんですが、TV番組の「マツコの知らない世界」で、「左利きの世界」という回に出演されました。あれは突然、オファーが来たんですか?

私は9年ほど前に、「左利きの人々」というビジネスとは関係のない文庫本を出していて、それでオファーが来ました。以前から、ラジオとか新聞、雑誌で左利きの特集があると声がかかるんです。あの番組は1対1でがっちり出るじゃないですか。あの本を書いてからずいぶんタイムラグがあったんで、忘れてることも多くて、当時より知識も減ってるから、もっとしゃべれそうな人を紹介したんですけど、そっちも断られたらしく、結局出演するはめになったんです。

― やっぱり、テレビに出た後は、反響が全然違うものですか?

自分のビジネスにはまったくつながってないんですが、反響はありましたね。ずいぶん昔の友人から電話がかかったり。同窓会のメーリングリストで回っちゃったり。視聴率がわりと良い番組らしくて、その週のTBSの番組の視聴率BEST10に入ったらしいんですよ。それで朝の番組でそのBEST10を紹介するコーナーでまた露出してしまって、恥ずかしい思いをしました。

渡瀬謙

― 最初に打ち合わせがあるんですか?

事前の打ち合わせはありますね。スタッフと何回かやって、本番で初めてマツコさんと会うような。マツコさんはその場に来るまでテーマを知らないんです。だからリアクションがいいんですよ。番組冒頭に、今日のテーマをスタッフに聞くシーンがあるんですけど、「左利き」と聞いて、つまらなそうな反応からスタートだったんです(笑)。

― 野球のエピソードで、左利きのグローブがなくて素手で守らされたとか。

そんなエピソードをあの番組の中ではもっとたくさん話したんですけど、けっこうカットされてました。

やはり家で籠ってる方が性に合う

― 今後の展望とか抱負をお伺いしたいと思います。

そんなに大きな展望はないんですよ。今やってる流れを淡々と続けていければなと思っています。本を年に2冊くらい書いて、その読者から講演依頼が来て。そういう意味でも本はビジネスツールにもなっています。とは言っても講演で出歩くよりは、家の中に籠ってるほうが性に合ってるので、依頼はポツポツ程度でいいです。

スカイプを使ったマンツーマンレッスンを

企業研修は1回とか3回とかで終わるから、話を伝えきれないこともあって、まだ悩んでる人もいます。スカイプなんかで家の中からマンツーマンでやれば、シリーズで6回とかもできるので、その人の長所・弱点も見えてきて、やるべき方向も見えてきます。確実に営業力がつく個人レッスンなどを今後は伸ばしていきたいですね。

― セールスって、わかってしまえば売りつけなくても売れるものは売れるし、そう難しいものではないと思うんですが、悩んでる人は多いんですね。

ちょっとしたことでつまずいて先に進めないなんて、もったいないことだと思います。ひとりでも多くの人の役に立ちたいですね。

【略歴】
渡瀬謙(わたせけん)
サイレントセールストレーナー。有限会社ピクトワークス代表取締役。
1962年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、一部上場の精密機器メーカーに営業職として入社。その後、(株)リクルートに転職し、社内でも異色な「無口な営業スタイル」で入社10か月で営業達成率全国1位となる。94年、(有)ピクトワークスを設立、広告や雑誌制作のクリエイティブに携わり、その後、営業マン教育分野に事業をシフトし、内向型で悩む営業マンに対するセミナー、講演で活躍中。

著書に「トップセールスが絶対言わない営業の言葉」(日本実業出版社)「本音を引き出す『3つの質問』」(日経ビジネス人文庫)「超一流の相手にしゃべらせる雑談術」(PHP研究所)「左利きの人々 悲しくも笑える」(KADOKAWA)などがある。

渡瀬謙 サイレントセールス・オフィス
渡瀬謙氏著書一覧