12年間の会社勤務の後、「お手伝いを仕事とするのではなく、本当の事業を自分で」という思いから、独立を決意した藤井氏。海外でさまざまな経験を積み、現在はカングロ株式会社代表取締役として活躍しておられます。その原点となるモノは何か。どんなことを目指して活動しているのか、とことん聞き取らせていただきました。
「カングロ株式会社」とは
一風変わった名前ですが、「感謝感動をGlobalに」ということを社名とし、人事系組織開発のコンサルティングをやっています。環境にともなって企業も変化を求められていますが、なかなか現状から抜け出せず、旧態依然のままで仕事を続けていたりするわけです。そこをなんとか変革をしていこうという意志を持った経営者の方々に対し、会社の組織風土とか人材面の変革のお手伝いをしているのです。
事業家としてフィールドに立つ
ー 元々お勤めだったリクルートを辞めて、起業しようと思ったきっかけは?
学生時代から、自分で事業をやってみたいという思いがありましたが、リクルート社ではたくさんの経営者に会えるので、学びも含めて仕事をしていたのです。
ある時、経営者の方にこんなことを言われました。「人と組織とか経営の面について君がそういう話をするんだったら、自分でやってみるといいよ。そんなに経営は簡単じゃないよ」と。たしかにリクルートさんの仕事は、ユーザーと企業をつなぐお手伝いで、自分が事業家としてフィールドに立ってるわけじゃないんですよね。その言葉に背中を押され、12年でリクルートを卒業しました。
ー 今9期目ということですが、振り返っていかがでしたか?
9年はあっという間でしたけれども、苦労が絶えなかったですね。お金の問題だったり、仕事がうまくいかないとか、怒られちゃったり…。ただ自分で決めたことですし、 苦労も楽しいうちのひとつだったと思えます。
アフリカで本当の事業を
どこかのタイミングで、国際的な仕事をしたいと思っていましたので、外資系のマーケティングコンサルティング会社に3年ほど修行に出て、そのあと2010年にカングロを立ち上げました。でもコンサルティングの仕事ってお手伝いの仕事なんですよね。やはりお手伝いではなく自分で本当に事業をしたいと思っていて、事業をするんだったらアフリカでやりたいとずっと思っていたんです。
[adchord]そこで、西アフリカのナイジェリアに合弁会社を作りまして、日本から様々な技術を持ち込んで、水や食料の問題、環境やゴミの問題を解決していこうということで、3年ほどやってました。これはかなり大変でしたね。テロとかエボラ出血熱が出たタイミングで少しスローダウンして一時撤収しましたが、今も合弁会社は残っていて、また戻ろうかなという話をしてます。
日本の企業に伝えたい、Zappos.comの「幸せを届ける」企業文化
一方、カングロではアメリカやヨーロッパにいろいろ接点を持っていて、企業の経営者が海外の優良企業を視察するお手伝いもしていました。組織変革とか企業文化がユニークな会社で、勉強させてもらうんです。
ー それは面白いですね。経営者は考え方とか変わるでしょうね。
そうですね、変わりますね。このザッポス(Zappos.com)という会社も、そのうちの一つです。
ザッポスの考え方や、会社経営のあり方がとても好きで。今のカングロの事業でも、ここが原点になっているんですよ。行くといつもいろいろ良くしてくれて。仲間みたいなものですね。
2008年にリーマンショックがあり、海外から見た日本はすごくどんよりしていました。仲間からも「日本どうしちゃったの」みたいなことを言われる中、何か刺激になるカンフル剤的な企業のケーススタディを探していたんです。
そんな時ザッポスの本を知り、その著者の方にお声がけいただいてザッポス社との縁ができたのです。何度かアプローチをしているうち、CEOのトニー・シェイにも会うことも出来ました。彼らのことを深く学ぶにつれて、これは日本の経営者にどんどん伝えなきゃいけないなという事でセミナーを手弁当でやり始めて、それがきっかけでいろんなコミュニティが出来始めました。今のカングロのお客様とか仲間達のベースは、そこが出発点なんです。
企業が幸せなら売上はついてくる
ー ザッポスのどういったところをベースにしているのですか?
一番は、彼らの経営理念であるデリバリングハピネス、「幸せを届ける」と言う考え方です。ザッポスは元々、靴やファッションのネット通販会社なのですが、「幸せを届けるためには、自分達が幸せいっぱいじゃないと届けられないよね」という思いから、一生懸命幸せな仕事環境や経営環境をみんなで作っています。そろそろ20年になりますが、彼らの企業文化は変わらず、お客様に感動や幸せを届ける中で、どんどん事業も拡大しているわけですよね。
[adchord]その、「自分達が幸せになればお客様も幸せにでき、その結果、売上とか利益が後からついてくる」という考え方がすごくしっくりきて。リーマンショックがきっかけで、儲け主義の経営者がどんどん破綻していく中、「これがこれからの21世紀の企業の在り方なのではないか」という確信がありました。そういう企業文化を作っていった方法論も勉強させていただき、今、日本の経営者にお伝えしているのです。
ワークライフバランスではなく、ワークライフ・インテグレーション
ザッポスは、仕事と人生の完全なる融合を目指していて、それをワークライフ・インテグレーションと呼んでいます。ワークライフバランスではなく、仕事と人生が完全に一致することでよりパワフルになり、幸せを体感できるということですね。
それもすごくしっくりきました。私達もそこを分離させるのではなくて自分の本当にやりたい事を志を持ってやる。その時が一番パワフルだし幸せに感じるよねという事で、そういう事を目指せるコーチングをしているんですよね。それをライフコーチングと僕は言っていて、ベンチャー企業から何万人の大手企業さんまで導入させていただいています。
クラウドシステム『TREE』とは
ー 『TREE』というのはそのためのサービスなんですか?
『TREE』は、組織やチームにおけるワークライフ・インテグレーションをお手伝いするためのクラウドシステムです。上長と担当者の絆とかつながりを高める、目標管理のツールなんですよ。
ー 上司と部下のコミュニケーションの問題、認識のずれから、組織がうまくいっていない。そういった課題を持っている人は多いですよね。
おっしゃる通りです。その中には構造的な問題が一つあって、仕事を進めていく上で階層ができると、そこに見えない壁ができ、それがコミュニケーションの断絶を生んでいます。どんな組織であっても、上下の関係性ができた段階でコミュニケーションが難しくなるという自明の理があるわけですよね。
[adchord]しかし、上下の関係であったとしても、目的とか目標が共有されていれば、それに向かって目標を達成しようと一丸になって頑張ろうとするじゃないですか。そういう関係性を作りたいと思って、このクラウドシステムを作りました。
ー これからの時代、クラウドで管理出来るというのは、すごくプラスになりますよね。
そうですね。やっぱりITの良さというのはあります。『TREE』を入り口に上長と担当者の関係性の質を高めていただくことで、その総和であるチームや組織が改善されていくことに繋がりますね。
『HOOPS! 』でよみがえる感性のコミュニケーション
ー こちらの 『HOOPS!』 とはどういうものですか。
「Happiness Of Occupation, Philanthropy and Subsistence farming!」から『HOOPS!』というコンセプトを作りました。これは、好きな仕事×社会貢献×自給的農という意味なんです。自給的農というのは農業ではなく、自分達が生きていく最低限の食料を自分達で生み出そうという事ですね。これを掛け算していくと素晴らしい生き方が出来るんじゃないかという仮説をもとに、そういったコミュニティとか場作りをしています。
私は茨城県の東海村の出身で、少し入ると日立の深い山や森があって、古民家がたくさんあるんですよ。そこをお借りして、会社の経営幹部とか若手をそこに連れて行くんです。そこには、コンクリートジャングルの中で閉塞的になっている感性を開く仕掛けがたくさんあります。農業体験をして土をいじったり、焚き火の火を見たり、自分達でお給仕をしたり、色んなメニューがありますが、例えば囲炉裏を囲んで対話をしていったりすると、五感が活性化されて、会議室で経営会議をするのとは全然違う結論が導き出されるんです。
最初はやっぱり面倒だし、若い子なんかは土臭い田舎に行くと何かつまんないというイメージがありますけど、行ったらすごく開放的になります。オープンマインドだから、いろんな世代の先輩後輩や経営層の方ともコミュニケーションがとれて、「ほんと来て良かったです」と言っています。今では地元で協力者がたくさん出来て。しょっちゅう行くようになっていますね。
企業のトップを変えていきたい
ー 今後はどんなことをしていきたいですか?
今、世界中にどんどん資本主義のイデオロギーが蔓延しているじゃないですか。もちろん良い面も悪い面もありますが、巨大化したマネーによって力関係が生まれ始めています。企業が影響力を増してきて、国をも動かすような存在になってしまっているということが、これからどんどんはっきりしてくるでしょう。
[adchord]トップの影響力
それで言うと、企業のトップがとても大事になってきています。社会に対してもそうだし、自分達の従業員の人達、その家族に対しても、経営者のさじ加減一つで、影響力がありますよね。経営者がとにかく我田引水、売上至上主義で、数字の大きさとか、立派な本社を構えて「どうだ!」とか、そういう変なエゴイズムに毒されていくと、社員の人達も目的を持てずにどんどんおかしくなっていってしまいます。
政治家が企業に「優遇するから票を入れてくれ」みたいな、そういう構造になってしまったら、市民の為の民主主義ではなくなってきますよね。そうならないように、世の中を変えたいと思っているんです。
経営者の人格が、幸せな社会を作る
そのためには、企業経営者の精神性や人間性、人格を高めていくという事が、世の中を変革していく一番の近道なんじゃないかなと思うわけですよ。経営者の人格、人間性が高まっていかないと世の中良くなっていかないなと、本当に思っています。
そうすれば、社員は幸せに仕事ができ、いきいきとした人生を生きることができる。子供達はその背中を見てお父さんお母さん達の様になりたいなという社会ができてくる。自殺やいじめの問題があったり、超高齢化社会の中にあっても、助け合いの精神が生まれていくんじゃないかなと思うんです。一番の起点は経営者。ですから、経営者の人達にとにかくたくさんお会いして一緒に世の中を変えていきたいなという思いでやっています。
【 略歴 】
藤井啓人 Hiroto Bobby Fujii
カングロ株式会社 代表取締役
KANGLO NIGERIA 代表
サステナビリティ・イノベーティブ・コンサルタント
ライフコーチ
※2018年7月7日に「藤井利幸」を改名
●1968年生まれ、茨城県東海村出身。筑波大学卒(体育会硬式野球部に所属し選手及び2軍監督を歴任)。
●1992年株式会社リクルート入社。12年間に渡り人材総合サービス事業及びHRD事業(人事・教育研修・組織活性開発事業)に従事。中小企業から大企業まで約2000社に対し、経営者、事業責任者、実務担当者と二人三脚で人事・組織・採用・教育コンサルティングに携わる。主要担当業種は、IT、金融、エレクトロニクス、通信、製薬、建設、商社、小売、流通業。社内表彰制度で全国MVP・部門MVPの受賞計8回。リクルート社内におけるナレッジマネジメント化プロジェクト(良い仕事を共有化するシステム作り)の強化委員を務め、自身でもコンテストで全国大賞を第一回・第二回と連続受賞。2004年にリクルート社を卒業。
●2004年に、KANGLO CORPORATION(カングロ株式会社)の前身であるマネジメント・リコンストラクション社を創業し代表に就任。事業・企業再生コンサルティングを開始。複数のプロジェクトを経て、世界屈指の顧客満足度調査会社 J.D Power Asia Pacific. Inc. に入社し、各種顧客満足度(CS)調査および社員満足度(ES)調査のプロジェクトマネジメント、及び世界自動車需要予測の日本市場開発の立ち上げを担当。
●2010年5月にKANGLO CORPORATION(カングロ株式会社)の設立に参画。代表取締役に就任。VOC/S (Voice of the customer/ stakeholder: お客様及び利害関係者の声)TM を活かしたイノベーティブ・ケーパビリティ(革新能力)の向上支援事業に着手。数多くの企業変革・事業再生・業績向上支援のためのリサーチ&コンサルティングプロジェクトの経験を生かし、お客様の事業イノベーションをサポート。顧客は中小企業からグローバルカンパニーに及ぶ。2010年11月よりソーシャル・イノベーション・プロジェクト「Project Z」を立ち上げ、米Zappos.com社をはじめとする世界中のハピネス経営を実践する企業、サステナビリティ3.0を実践する米Patagonia社から学び、行動を起こす社会変革活動を推進している。
●2011年8月1日より会員制ビジネスサロン『イノベーションサロンZ』を創設。2012年1月よりAH7H理論をベースに『心を整える7つの習慣』提供開始。同年7月より『Sustainability3.0講座』提供開始。
●2013年以降、システムD研究会、自転車事故防止委員会、セブメディの会、サステナ塾を設立。2015年より同士と共に、懐かしい未来プロジェクト『HOOPS!』事業を開始し、持続可能な地域社会の実現のために人間本来の役割を思い出すためのあらゆる「体験」の場と機会を提供している。そして、2016年10月1日クラウド型MBO・スキルセットDBツール『TREE』を開発しリリース。自転車のある生活をこよなく愛し、年間約1万kmを走破する。マラソンランナー、トライアスリート。
●2012年7月より、アフリカにて自転車事業準備開始。9月末よりナイジェリア渡航実施。2013年より国際貿易、製造業分野に進出(WEFE Project)。2014年よりナイジェリアのキャッサバ残渣を活用したEri-Silk事業を州政府、現地企業、国立大学と共同で開始(KANGLO NIGERIA)。2014年8月、同国にてエボラ出血熱の発症例が現れたため、一時事業を休止。2020年再開を目指し、準備を行っている。
●2018年7月7日より大好きだった祖父より拝名した藤井利幸を改め、藤井啓人(Hiroto Bobby Fujii)に改名。50歳を節目に、自身の「幸せを利する」生き方から、世のため人のために「人心を啓く」ことに残りの人生を捧げる決意とした。